主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
重症薬疹や薬物性肝障害等の医薬品の重篤副作用は、患者の遺伝的要因に起因する特異体質性のものが多い。Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症(SJS/TEN)等の重症薬疹に関して知見が豊富で、漢民族等におけるカルバマゼピンによる発症とヒト白血球抗原 (HLA)-B*15:02との関連が代表的である。遺伝素因の保有頻度には、民族間で大きな違いが存在する。そのため、他民族で見いだされた関連が日本人においては再現されないことがしばしば起こりうる。カルバマゼピンの例でいえば、日本人のSJS/TEN発症には、HLA-B*15:11が関連していることを我々のグループが過去に見いだしている。これはすなわち、特異体質性重篤副作用の発症関連因子を探索するためには、民族ごとに症例収集と関連解析の実施が必要になることを意味している。
国立医薬品食品衛生研究所では、厚生労働省の「予測・予防型安全対策」の一環として、2009年より重篤副作用の発症関連ゲノムバイオマーカー探索研究を遂行している。本研究では、SJS/TEN、薬物性肝障害、薬剤性間質性肺炎、および横紋筋融解症の症例収集を進めた。また、日本PGxデータサイエンスコンソーシアムが収集した日本人健常人のゲノムデータを対照として用い、種々の薬物による重篤副作用の発症関連ゲノムバイオマーカーの探索を実施した。
この研究により、近年、サルファ剤による重症薬疹の発症におけるHLA-A*11:01や、漢方薬による薬物性肝障害の発症におけるHLA-B*35:01の関連などを見いだした。また、HLA型以外の遺伝的要因として、海外のグループと共同で、フェニトインによる重症薬疹の発症に、薬物代謝酵素の機能低下型遺伝子多型(CYP2C9*3)が関連することなどを発見した。当日は、これらの研究成果の他、HLAを介する副作用発現のメカニズム等について紹介したい。