主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
医薬品開発において、胚・胎児影響を調べる発生毒性試験は、臨床試験の実施が困難であるため、動物を用いた非臨床試験が非常に重要な指標となる。一方で、発生毒性は種差が大きいことも知られており、サリドマイドのようにげっ歯類では奇形を生じないがヒトでは深刻な奇形を生じる医薬品も存在する。そのため、現行の試験法では複数種多数の動物を用いるなど、人的・時間的・金銭的に多大な労力を払ってその安全性を評価せざるを得ない。加えて、核酸医薬品のような新規モダリティ医薬品はヒトに対する特異性が高く、現行の動物試験だけではその安全性を評価することが難しい。したがって、ヒト発生への影響の有無を高精度に予測可能なスループット性の高いin vitro発生毒性試験法が求められている。
我々は胚・胎児発生がシグナル伝達相互作用により制御されることに着目し、ヒトiPS細胞を用い、化学物質のシグナル伝達のかく乱作用を基にした発生毒性評価法(DynaLux/c)を開発してきた。これまでに発生毒性物質のFGF-SRFシグナルに対するかく乱作用の動的変化を24時間の生細胞ルシフェレースアッセイにより解析し、高い正確性と網羅性を有することを報告してきた(Kanno et al., iScience, 2022)。
現在、我々は、DynaLux/cに培養細胞多検体リアルタイム発光計測システム(KronosHT)を導入し、48時間以上の連続したシグナルかく乱作用の動的変化の検出に成功した。KronosHTの導入により、試験は1週間で終了し、詳細なシグナルかく乱作用の検出が可能となった。また、FGF-SRF以外の発生過程を制御するシグナルかく乱として、Wnt-TCF/LEFシグナルのレポーターアッセイ系を構築し、化学物質によるかく乱作用の検出を進めている。最後に、分子機構の解明に関する取り組みに関して、進捗を報告したい。