主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
最近、フグ毒として知られるテトロドトキシン(TTX)とその類似物質が、ヨーロッパ海域の腹足類や二枚貝から検出されたため、欧州食品安全機関(EFSA)は、海産二枚貝におけるTTXのリスク評価を実施した。雌性Swissマウスを用いた急性経口試験の結果に基づき、最も感度の高いエンドポイントとして「無気力(apathy)」が選択され、その無影響量(NOAEL)である25 μg/kg体重に基づいて、TTXおよびその類縁物質の急性参照用量(ARfD)として0.25 μg/kg体重が導き出された。従ってマウスにおいては、TTXの経口投与により、人での中毒症状としてあまり知られていない「無気力」という中枢影響が、最も感度良く誘発されることが示唆された。
TTX急性中毒の分子メカニズムの探索を目的として、分子メカニズムに基づく毒性予測に向けて開発されたPercellomeトキシコゲノミクスを適用した。24時間無作用量を高用量とし、12週齢の雄性C57BL/6Jマウスに、TTX(0、30、100及び300 μg/kg体重)を単回経口投与した際(各4用量・4時点)の肝及び海馬のmRNAを採取し、GeneChip MOE430v2 (affy-metrix社)を用い、約45,000プローブセット(ps)の遺伝子発現の絶対量をPercellome法により得て網羅的解析をおこなった。比較的多くの遺伝子の発現変動が認められ([肝]: 750 (増加)/27 (減少) ps、[海馬]: 121 (増加)/0 (減少) ps)、解析の結果、肝と海馬ともにストレス応答やサイトカインに係るシグナルネットワークが抽出された。その他、肝では糖新生作用が予測されたが、興味深いことに、海馬では神経伝達に絡むシグナル分子の発現変動は目立たなかった。多臓器連関について解析中であり、以て、TTX急性中毒の分子メカニズムについて包括的に議論したい。