主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
中毒患者の診療を行う際に、その患者が何かの「中毒」であると判明している場合とそうでない場合がある。よって常日頃より「中毒による症状」の可能性を考えて患者診療を行うことが大事である。特に「原因不明の〇〇」は中毒を疑うキーワードとなる。また何かの中毒であることはわかっていても「何の」中毒であるかが分からない状況にも遭遇する。こういった場合、どのような物質の中毒であるか中毒物質を想定して診療を行うがその時に用いるのがトキシドローム(toxidrome)である。トキシドロームとはtoxic syndromeからつくられた造語であり1970年ごろから使われ始めた。症状や徴候から中毒原因物質を分類して緊急対処を行うための概念として用いられており、分類の仕方は様々であるがACLS (Advanced Cardiovascular Life Support)におけるEP(experienced provider)コースにおいては交感神経作動性、コリン作動性、抗コリン性、オピオイド、鎮静/催眠性の5つの分類がされていて臨床現場においては一般的な分類である。一方、有毒ガスや化学物質への対応を行う教育コースであるAHLS(Advanced Hazmat Life Support)においては刺激性ガス、窒息性、コリン作動性、腐食性物質、ハロゲン化炭化水素の5分類がなされており、状況に応じて適宜症状、徴候を捉えて分類を行うことが求められる。いずれにしてもトキシドロームによる分類の意義としては原因薬毒物が同定されなくても分類されることで必要な緊急治療につなげることができる点である。日本中毒学会監修「急性中毒標準診療ガイド」においてもその点を重要視しておりトキシドロームとそれを補完するための分析を含めた各種臨床検査の解説に1章を割り当て急性中毒診療における標準的な考え方として位置付けている。