主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
心筋梗塞は、心臓の筋肉への血流が遮断される疾患で、治療後も心筋の障害は進行しやすいことが知られている。疾病の進行は極めて早いため、これまでは病態が進行した後で行われる研究が主なものでした。今回、我々は生きた疾患モデルマウスを用いて、心筋の虚血再灌流障害が段階的に進む過程を、新技術「代謝分子を用いたモニタリング手法(透析膜手法)」で詳細に観察した。この新手法の活用により、心筋梗塞が引き起こす有害な活性酸素の除去機能が徐々に低下するメカニズムを特定した。さらに、活性酸素の除去を強化する代謝経路に介入することで、虚血再灌流障害後の心筋のダメージを減少させることができることが観察された。
今回の研究では、細胞膜の「活性酸素による脂質の酸化」に焦点を当てた。細胞膜の脂質が過剰に酸化されると、膜としての構造を保てなくなり細胞全体が死に至ってしまうことも知られている(フェロトーシス)。心臓の虚血再灌流障害では、酸化脂質の蓄積およびフェロトーシスが虚血再灌流後の比較的遅いタイミング(再灌流後6時間以降)で始まり、その原因が虚血・再灌流時にグルタチオンという強力な還元物質が、特殊なトランスポーター(主にMRP1:multidrug resistance protein 1)を介して細胞の外に漏れ出てしまうことを解明した。本研究では、心筋細胞内での活性酸素および酸化脂質の増加を制御し、フェロトーシスという細胞死の進行を抑える新しい治療ターゲットを特定することができた。この新たな治療法は、心筋梗塞患者の生命を救い、生活の質の向上や病態からの回復をサポートする重要な選択肢として期待される。