日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL2
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特別講演
毒性アルデヒドに対する免疫記憶
*内田 浩二
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抄録

食・環境を通して私たち人類は膨大な化学物質に曝される。その生涯にわたるエクスポソーム(環境因子曝露)は健康や寿命に深く関与するものと予想されている。こうした化学物質の中でも、アルデヒド類は最も身近な化合物の一つであり、食・環境因子だけでなく、脂肪酸や糖質代謝物に至るまで、生体内外に多くの生成源が存在する。特に、ブドウ糖自体もアルデヒド性を示し、多価不飽和脂肪酸の過酸化では、脂肪族アルデヒドだけでなく、α,β-不飽和アルデヒドやケトアルデヒドなど、様々な反応性(毒性)アルデヒド類が生成される。こうした毒性アルデヒドに対し、生物は解毒代謝などの防御機構を有している。一方、親電子性であるアルデヒドは、タンパク質分子上の求核性アミノ酸残基に反応し、特有の異常構造(付加体)を生成する。無数に生成される付加体構造の総和(“修飾シグネチャー”)は、生体応答の刺激として記憶され、生物応答機構の一端を担うことが予想される。付加体構造に対する最も代表的な応答機構が免疫系である。最近の研究により、ある種の自己免疫疾患では、アルデヒド修飾をめぐって不可思議な交差性を示す抗体の産生が明らかになった。例えば、DNAに対する自己抗体の過剰産生が知られる全身性エリテマトーデス (SLE)では、DNAだけでなく、毒性アルデヒド修飾タンパク質に親和性を示す二重交差性IgG抗体の存在が判明した。一方、自然免疫タンパク質として生体防御に関与するIgM抗体には、IgG抗体以上の多様性が明らかになっている。特に、発癌性が疑われるアクロレインに関しては、アクロレイン修飾タンパク質を認識するB細胞(B-1a細胞)とともにIgM抗体に関する興味深い交差性が明らかになっている。アクロレイン修飾タンパク質に対する自然免疫B細胞の存在は、生命がその誕生とともにこの毒性化合物に対して対処しなければならず、その手段として自然免疫を使う術を獲得したことを想像させる。こうした生体防御において重要な役割を果たす免疫記憶のどこかに、毒性を示すアルデヒドが存在するという事実は、健康・疾患との関係を考える上で極めて興味深い。

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