主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
KEAP1-NRF2系は、環境由来の種々のストレスに応答する制御システムである。NRF2は遺伝子発現を正または負の方向に制御する転写因子である。一方、KEAP1は毒性物質や酸化ストレスを感知するセンサーとして働く。また、KEAP1はNRF2の分解も制御する。通常、NRF2はKEAP1に捕捉され、速やかなタンパク質分解を受けるので、非ストレス状態でのNRF2発現レベルは非常に低い。一方、細胞がストレスに曝されると、KEAP1機能が障害され、NRF2は分解を免れて安定化(活性化)する。NRF2が活性化すると、ストレス防御に働く一群の遺伝子が発現誘導される。生体においてNRF2の果たす役割やその制御メカニズムは、NRF2やKEAP1の機能を種々に改変したモデルマウス系統を利用して実証されてきた。実際に、本制御系の失調は多くの酸化ストレスや炎症に関連する病態の発症や重篤化を招来する。そのため、NRF2誘導剤はこれら疾患に対する予防薬や治療薬として有望である。ところで、私たちは東北メディカル・メガバンク機構を設立し、このバイオバンクを利用して、KEAP1-NRF2制御系の研究をヒトバイオロジーへと発展させている。また、宇宙環境ストレスに対してもNRF2が防御に働くのではないかと考えて、NRF2欠失マウスの宇宙滞在実験を実施した。宇宙滞在によって、全身臓器の多くでNRF2標的遺伝子の発現が上昇しており、実際に宇宙環境ストレスがNRF2を活性化することが実証された。宇宙マウス研究のデータは、JAXAと東北メディカル・メガバンク機構が協力して構築・公開している宇宙生命科学統合バイオバンク(ibSLS)に公開されている。