2019 年 21 巻 p. 090-
「民泊を考える」は,世界の宿泊業界に大きな影響を与えた「民泊」のあり様に,わが国として一定の方針が示された「住宅宿泊事業法」の施行を目前にした2018年5月に発刊された.インターネットを活用した民泊ビジネスが,シェアリング・エコノミーという追い風に乗り,これほどまでにインパクトを与えるとは,長い歴史を誇る既存の宿泊業界も想像していなかったのではないだろうか.既存のホテル・旅館業界と不動産業界の戦いともいわれた民泊問題であるが,単にビジネスとしての視点,あるいは既存ストックの活用という視点,インバウンドを含めた観光振興の視点,宿泊業が成立しにくい条件不利地域活性化の視点などに加えて,民泊を受け入れる地域の用途や居住環境の視点にまで広がりをみせ,当初の対立の構図を超えた展開となった.宿泊~滞在~一時居住~居住という人間の観光行動から日々の暮らしに至る広範な議論展開が行われたことは,改めて宿泊業界を含む観光関連業界に対して,「泊まる」ことの本質的な意味や旅館業法の意義,宿泊から居住施設のあるべき姿の複雑さを考え直させる結果となったのではないか.