本稿では,これまでほとんど計測されることがなかった交通サービスの「オプション価値」の概念を再検討し,交通経済学の文脈の中で位置づけると同時に,存続が危ぶまれている路線バスを対象にその価値を実際に計測してみた.地区の合意に基づき地域の全世帯が利用の有無にかかわらず回数券を購入して路線バスの運行継続を支える弘南バス深谷線の事例では,1世帯あたり年間1万円弱の「オプション価値」が発生しているという推計結果が得られた.この事例では,比較的小さな「オプション価値」しか発生していないが、それは「ただ乗り」行動の小ささを意味しており,自発的協力がうまく機能しているものとして評価されるだろう.