抄録
現代芸術家荒川修作は、「天命反転」という独自の概念を提唱し、創作活動を行ってきた。「天命反転」とは、人が死ぬということ=「天命」を反転させるという意味であり、「人は死ななくなる」という主張である。この「天命反転」思想を実現するために、荒川は建築作品を創作してきた。本稿では、荒川が提唱する「新しい感覚的重力」に着目し、荒川建築におけるバランスを失うという仕掛けについて考察する。荒川は、建築によって私たちの身体のバランスを失わせることによって、重力に対する感覚を作り変えようとする。それによって場所でも身体の行為でもない環境を、現象として発生させるのだという。荒川の建築作品は非日常のテーマパークから日常の住宅へと発展的に展開した。バランスを失うという仕掛けが日常化することによって、私たちの身体はより可能性に満ちた動きをするようになり、それによって荒川の「天命反転」構想はより一段実現度を増したということができる。