抄録
統合失調症と宗教的経験を分析心理学と東洋哲学の視点から考察した。両者共に、自我意識が集合的無意識に触れた時の超越的体験と考えられる。統合失調症では、迫ってくる集合的無意識に自我意識は飲み込まれ受動的に蹂躙され破壊されようとしている。これに対して、宗教的経験は自我意識が能動的に集合的無意識に取り組む状態である。宗教的悟りへ向かう修行の途上における禅病やクンダリーニ症候群は、自我意識が集合的無意識に圧倒されてしまうことにより生じている。意識・個人的無意識・集合的無意識を含んだ心の中心がセルフである。統合失調症の治療では、集合的無意識との接触に耐えられる程度まで自我意識を強化し、さらに、自我意識と集合的無意識の間の良好な関係を取り戻すことにより、回復を促す。宗教的悟りの境地は、修行によりセルフを心の中心に定位して、ポジティブ・ネガティブ両側面を含む心の全体を調和統合することによって到達しうる。