抄録
国際協力における熱帯研究、なかでも国際協力の一環として行われている農村開発の現場では、当事者的なかかわりがもてる現場にしっかりと足をおろした研究が求められています。農村開発の現場は、熱帯における人々の暮らす実体がともなった地域です。その地域に暮らす自分をつよく意識することが当事者的意識を育て、地域を捉える視点を覚醒させます。国際協力事業団の研究協力事業として実施されてきたパングラデシュにおける農村開発にかんする実践的な研究の現場でっかむことができた見方が、在地性という地域を捉える視点です。農村開発によってもたらされる変革は過去と未来が、水彩画の修正が元の絵に馴染ませるように色を塗ることで達成されるように、現実が変化していくことです。これが農村開発における求められる開発の姿です。馴染むことこそが、開発によってもたらされた変化が在地化することであり、在地性を獲得していくことです。在地の技術とは、在地性を核にし、絶えず変化しつつづける、農民の知恵が主体的に育んでいる技術です。この点が過去に重きをおいた固定的な伝統技術とは大きくことなります。本報告では、在地の技術の典型例として、乾季の高収量品種栽培における伝統稲作技術の適用、深水アマン稲栽培における2 回移植方法を、農村開発における在地の技術の応用例として私たちが開発した河川侵食進行防止法を紹介します。在地の技術の発見と展開には、当事者的に現実と向かいあう主体的な研究アプローチが必要です。こうしたアプローチは国際協力の現場における熱帯研究の醍醐味でもあります。研究と実践の求離が「熱帯研究栄えて、熱帯滅びる」という状況をつくりださないためにも、農村開発という国際協力の現場にかかわていきた経験から、当事者的意識によって現場とかかわる熱帯研究をおおいに模索してはどうかと提言します。