社会学年報
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論文
ブリティシュネスの解体と再想像
―ポスト権限委譲におけるナショナルおよびサブナショナル・アイデンティティ―
安達 智史
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2010 年 39 巻 p. 51-62

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抄録

 グローバル化の進展は,これまで唯一有意な単位と認められてきたナショナルなものの正当性と有用性を掘り崩し,ローカルな単位のプレゼンスを高めている.ところが,他方で,脱中心化する世界において社会統合を生み出すため,1990年代以降,逆に規範枠組みとしてのナショナルなものの重要性が注目されている.本稿が対象とするイギリスは,近代以降,戦争と福祉を通じてブリティッシュネスの意識を構築してきた.だが,1970年代を契機とした国民国家の衰退がリージョナル・レベルのナショナリズム運動を促し,特に1999年の権限委譲以後,サブナショナル・アイデンティティの意識が高まっている.とりわけ,これまでイギリスと同一視されてきたイングリッシュネスという意識の突出・分出が,イギリスの社会統合をめぐる新たな課題として浮上してきている.それに対し,新労働党は,民主主義的な価値を表すブリティッシュネスという観念を再想像して対処しようとしている.だが,包括的なナショナル・アイデンティティの成立のためには,「契約と連帯のアンビバレンツ」と「普遍主義と特殊主義のジレンマ」という,ポスト国民国家特有の課題を克服する必要がある.新労働党による民主主義的価値を体現するブリティッシュネスとシティズンシップに関する政策は,その2つの困難な課題を乗り越えようとするものである.

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© 2010 東北社会学会
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