社会学年報
Online ISSN : 2187-9532
Print ISSN : 0287-3133
ISSN-L : 0287-3133
最新号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
特集「環境社会学×リスク論――東日本大震災後の自己責任論に抗うために」
  • 青木 聡子
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 1-5
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー
  • 集落祭祀に関する村規約の分析から
    金子 祥之
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 7-19
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー

     本論の目的は,強制避難ののち人口が3分の2を超えるまでに回復した川内村において,なにゆえに集落の存続が危ぶまれているのかを,集落共同の通時的分析から明らかにすることである.

     分析の結果,被災地域における集落共同が,震災によって著しく弱められた事実が明らかになった.具体的には,震災後,葬送にかかわる組織は残らず解散し,神社の祭祀組織は大多数が休止に追い込まれた.このように集落共同が縮小する現状があるからこそ,集落の危機が実感されていたのである.

     集落共同は互助を原理とするが,震災後は,役割を果たすことが困難な家々が目立ち始めた.家々が集落内の責任を果たすことが困難であるため,たとえ集落の持続可能性を弱めるとしても,解散や休止を選び取らざるを得ないのである.すなわち,集落共同の変質は被害であり,いくら人びとの判断であっても,自己責任に帰することはできないものである.

  • 福永 真弓
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 21-34
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー

     被災という経験は,人びとに複数の断絶をもたらす.断絶を乗りこえようと,生活再建のために前向きに一歩を踏み出した人びとの営みは,しばしば,自己責任原理のなかに回収されてしまう.個人が実質的に決定することができないリスクや,集合的な問題として公的関心事になるべきリスクであったとしても,リスクとその被害は,個人的な苦痛や不安,乗りこえるべきものとみなされ,私的領域での解決を求められる.こうした自己責任の規範は,震災後10年を経て人びとの被災経験をさらに困難なものにしている.本論は,「わたくしごと」として人びとが抱えたことをその言葉から探りながら,被災という経験におけるリスクと責任の複雑な諸相を改めて描いてみたい.最後に,人びとが協働する空間や日々を回す動力を探し始めるその様子から,自己責任の隘路から抜け出す責任実践について探る.

  • 東日本大震災後10年のリスク論の課題
    小松 丈晃
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 35-47
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,東日本大震災における原発事故被害に焦点を当て,政府が帰還政策を進める中で,被害が「自己責任」化し不可視化(および個人化)されていく筋道を確認し,社会学的なリスク論の観点から,とくにルーマンの枠組みを援用しながら,こうした「無知」の構造的な産出に抗うための方向性の一つを探る.まず,リスクと危険の定義変更をもたらす(事故対応に責任をもつ側もしくは加害者側が設定した)区別の設定とその解除について確認する.その例として,第一に,緊急時から現在にいたるまで複雑に再編が繰り返されてきた被災地の空間的な「区域」の設定と,その解除をめぐる動きを挙げることができる.また,こうした空間的な境界線の設定の前提である「基準値」そのものも,「危険」を「リスク」へと定義変更する仕組みの一つである.問題の基本にあるのは,「リスク」という概念で何が意味されているのか,というリスクの定義の問題であり,不可視の個人化もこれによってもたらされているとみることができる.その意味で,「社会的」要素も加味したリスク概念,あるいは,それと親和的なリスクガバナンスの枠組みは,参照に値する.最後に,「無知」の社会学の視点に基づく探求の必要性について指摘する.

  • 除本 理史
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 49-51
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー
  • 正村 俊之
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 53-55
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー
自由投稿論文
  • 宮城県X市におけるコロナ禍の閉鎖対応分析より
    大井 慈郎
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 57-68
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー

     本稿は,コロナ禍における町内会館・自治会館の閉鎖対応を事例に,今日地域福祉の実践の場として活用されている町内会館・自治会館のもつ公的位置づけと管理者役割の曖昧さを指摘する.近年の介護保険制度見直しのなか,介護予防事業として住民運営の通いの場の充実が推進され,その物理的舞台として町内会館・自治会館が利用されている.本稿は事例研究として宮城県X市の町内会館・自治会館を管理する全町内会・自治会に対して,2020年2月以降の状況についてアンケート調査を実施した.その結果,コロナ禍において,行政より町内会館・自治会館閉鎖の要請があったが,実際に閉鎖した町内会・自治会は約4割にとどまり,閉鎖時期にも違いが現れた.さらに閉鎖の判断に際して,総会や役員会を開催できないなか,規約・規定によらない決定をせざるを得ない状態が生じた.緊急時における公の施設の管理・運営については,近年指定管理者制度のなかで提起されている問題である.本研究からも,町内会館・自治会館が平時より抱える公的位置づけと管理者役割,それぞれの曖昧さがコロナ禍での地区ごとの対応の差を生み出したことが明らかとなり,その結果として他地区の住民に対して使用禁止を決定した事例もみられた.これらは他の自治体においても,開かれた議論を行う必要がある今日的課題である.

  • ドラマトゥルギーの観点から
    木村 雅史
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 69-80
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,仙台市郊外Ⅹ市のコミュニティカフェ事業Yカフェを事例に,スタッフによる場の定義と実践を通して形成されていく利用者とスタッフの関係性をアーヴィング・ゴフマンのドラマトゥルギーの観点から記述・考察することである.

     地域の居場所としてのコミュニティカフェでは,利用者とスタッフが共に主体的に活動に参加できる調和的な関係が理想とされるが,スタッフの実践次第では,一方における主体性の発揮が他方の主体性の発揮を抑制する矛盾・葛藤関係も生じ得る.本稿では,スタッフのYカフェに対する位置づけを場の定義,Yカフェでの実践を役割パフォーマンスとして捉え,それらがいかに利用者とスタッフ双方の主体的参加の関係性を形成しているのか,特徴の異なる3地区の考察を行った.考察の結果,どの地区のカフェにおいても,利用者の主体的参加とスタッフの主体的参加の間には矛盾・葛藤関係が生じていたが,カフェの舞台裏となる活動のなかでスタッフの主体的参加の機会を確保する,利用者がカフェの活動に主体的に参加できるようスタッフが配慮するといった方法でこうした矛盾・葛藤関係は和らげられ,両者の主体的参加のバランスがとられていた.

  • 「中退者は辞めやすい」は本当か
    下瀬川 陽
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 81-91
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,大学等中退という経歴と,離職の起こりやすさの関連を検討することである.若年層の早期離職率の高さは「七・五・三」現象として知られ,その要因を明らかにしようとする研究は多く蓄積されているが,新規学卒者として扱われない大学等中退者は,これら研究の対象から抜け落ちている.また,大学等中退者のキャリア形成を扱った研究において,中長期的な不利について検討したものはほとんど見られず,離職リスクに着目したものは管見の限り存在しない.そこで本稿では,SSM調査データを用いて,他の学歴と比較した大学等中退者の離職リスクの高さを確かめ,その高さが中退者が得やすい職業の条件(雇用形態,企業規模など)によるものであることを示すべく分析を行った.離散時間ロジットモデルによる推定の結果,1990年代以降入職男性においては上述のような傾向が見られたが,それ以外のカテゴリでは他の学歴と比較して大学等中退者の離職リスクが高いということはなかった.中退者は離職しやすいというイメージは,少なくとも労働市場参入時点においてはイメージにすぎないが,そのイメージにより職業選択の余地が狭められることが,結果的に実際の離職に結びつくという「予言の自己成就」ともいえる状況が成立しかねないことを示している.

  • 宮城県石巻市北上町における「社会関係の復興」を巡るガバナンスの困難性とその解消に向けた行政の役割とは
    庄司 知恵子, 西城戸 誠
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 p. 93-104
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,震災以後,宮城県石巻市北上町において活動を展開してきた地域づくり団体「ウィーアーワン北上」によって,震災7年目に取り組まれた「コミュニティナース事業」が成し遂げたことを明らかにし,そこから「社会関係の復興」を巡るガバナンスの困難性について,復興研究と地域福祉研究の接続を図りながら検討した.この事業が成し遂げたこととして,社会福祉協議会と地域づくり団体の連携,制度の狭間を埋める,社会性を保つ支援が挙げられる.これらは,復興における「社会関係の復興」と地域福祉の「つながりづくり」に対応するものであり,この事業が復興と地域福祉との連携を可能とした.しかし,事業終了後,行政の「縦割り論理」を理由に連携は困難となった.市町村行政が,各種団体の対等性・自律性・自立性を重んじたうえでパートナーシップを図ること,そして,各団体の活動を保証することが,「地域福祉を巡るガバナンス」,そして復興を巡る「ローカルガバナンス」にとっても必要である.この点について,「社会関係の復興」を共通課題として,「地域」を対象とする地域社会学と地域福祉論の接続から捉えたことが本稿の貢献といえる.

執筆者紹介
feedback
Top