社会学年報
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論文
訴訟運動参加プロセスにみる「薬害HIV」概念の再検討
本郷 正武
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2013 年 42 巻 p. 109-119

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抄録

 本稿はHIVが混入した輸入血液凝固因子製剤によりHIV感染した血友病患者が政府と製薬企業を相手取った訴訟運動(1986~1996年)に参加するプロセスを示した上で,「薬害」概念が訴訟により構築されていく要件を検討する.血液凝固因子製剤によりHIV感染した事実のみで「薬害HIV」は成立しない.感染被害者や医師へのインタビュー調査から,原疾患である血友病,血液製剤により重複感染していたB型・C型肝炎との重要度の比較からHIV/AIDSの問題を認識し,さらに憤りや義憤を超えて,亡くなっていった仲間たちに対する使命や弔いの感情をもつようになるプロセスを明らかにした.こんにち,政府は「薬害教育」を強く推進しているが,本稿は「薬害」問題を開示する社会運動の生起を説明するため,従来の社会運動論の動員論,行為論とは異なる,社会運動の「質」を説明する「第三のアプローチ」を参照し,「薬害」概念を再検討するための枠組みを提示した.

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© 2013 東北社会学会
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