抄録
本稿の目的は,日本社会におけるフィリピン系結婚移民の組織形成と社会移動のあり様を捉えるために,「エンターテイナー」に対する価値意識の重要性を示すことである.そのため本稿では,移民が資源形成する場として注目されてきたエスニック教会とその解体過程を対象とした事例研究を行う.先行研究は,親世代を対象化する際に,同一世代内部の差異には十分な注意を払ってこなかった.しかし,エスニック教会の解体過程を通じて同一世代内部の社会関係を描いた本研究は,同一世代内部に葛藤・対立が存在することを明らかにした.そこで,とくにフィリピン人女性に対してステレオタイプに語られる「エンターテイナー」への価値意識とそのズレは,同一世代内部を分断する境界線としてあらわれ,エスニック教会の存立基盤を危うくする要因にもなっていた.よって,フィリピン系結婚移民を論じる際には,まずその背後にあるホスト社会の背景文脈と深くかかわる形で同一世代内部の社会関係を立体的に描き出す必要があると考える.