社会学年報
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42 巻
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特集「社会問題としての東日本大震災」
  • 片瀬 一男
    2013 年 42 巻 p. 1-4
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
  • 小松 丈晃
    2013 年 42 巻 p. 5-15
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     本稿では,いわゆる安全神話を形づくってしまう規制組織の構造的な問題について,社会環境的リスク(「リスク」と表記)と制度的リスク(〈リスク〉と表記)の区別に依拠して分析を行い,この両者が,当事者の視点からみると区別しがたくなっているがゆえに,〈リスク〉管理がかえって「リスク」の拡大を招きうることを示す.しかもこうした傾向は,新自由主義的な潮流の中でさらに拡大していく可能性を有する.まず,東日本大震災による原発震災にいたる過程において,安全規制を担う諸組織が,原子力技術の「リスク」そのものの管理を,非難の回避あるいは信頼喪失の回避といった〈リスク〉管理へと(ルーマンの社会システム論でいう)「リスク変換」したことを,指摘する.すなわち,組織システムは,その「環境」に見出される諸問題をそのシステムにとっての〈リスク〉へと変換し,その変換された〈リスク〉に応答するようになる.とはいえ,この「リスク」管理と〈リスク〉管理とは,分析的には区別されうるものの,当事者の観点からは区別しがたく,このことが,本来縮減されるべき「リスク」をむしろ深刻化させる背景ともなりうる.第三節では,C.フッドの議論に依拠して,具体的な〈リスク〉管理の(「非難回避」の)戦略について述べ,こうした二重のリスクの関係に関する研究の必要性を確認する.
  • ――被災者ニーズの多様性と保健師職能――
    板倉 有紀
    2013 年 42 巻 p. 17-29
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     本稿では,津波被災地における支援・ケアの持続可能性について「多様なニーズ」と保健師職能という側面から考察し,災害時の保健師職能の可能性を提起することを目的とする.被災から2年を経て一部の津波被災地では,保健師人員不足が危惧され保健師の増員がおこなわれている.長期化する復興過程における被害やニーズは,事前にあらかじめ特定される/特定されないものを含めて多様であり,長期的で持続可能な「生活支援」を含めた支援とケア体制が地域社会において今日的な課題となる.本稿はこの「ニーズの多様性」の事例を理論的には災害研究における「ヴァルネラビリティ」の議論に関する問題として位置づけた上で,経験的には「ニーズの多様性」への対処・発見としての災害時の保健師の活動の意義を考察する.保健師の活動は健康面での支援・ケアだけではなく,多様なニーズを発見しそれに対処しうるものとして実践的な可能性を持つことを示したい.災害時に活かされうる保健師職能は平常時からの地区担当制や戸別家庭訪問といった保健師の活動と連続性があると考えられる.災害時/平常時の保健師の活動を維持していくためには課題もあり,効果的な派遣体制や平常時からの業務配置,保健師職能の世代間の継承性についてさらなる議論の余地が残る.
  • 茅野 恒秀, 阿部 晃士
    2013 年 42 巻 p. 31-42
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     東日本大震災によって,岩手県大船渡市は人口の約1%にあたる住民が死者・行方不明者となり,7割近い人が住居や仕事に震災の影響を受けた.市は早くから復興計画策定に取り組み,震災発生から40日後の2011年4月に基本方針を,7月に復興計画骨子を決定し,10月に復興計画を決定した.
     市は基本方針で市民参加による復興を掲げ,市民意向調査やワークショップ,地区懇談会などの手法を用いて復興計画に住民の意見を反映させることを試みた.しかしながら広域かつ甚大な被害に対して速やかな生活環境の復旧が強く求められる状況下,市は復興計画を早急に策定するという目標を設定する一方,国等からの復興支援策が具体化せず数度にわたりスケジュール変更を余儀なくされた.このため,復興計画の詳細にわたる充分な住民参加の実現という点では課題を残した.
     筆者らの意識調査によれば,住民は復興計画に強い関心を持つが,自ら策定過程に参加した人はごく限られており,丁寧な住民参加・合意形成を前提としたボトムアップ型の復興と,行政のリーダーシップの下でのスピード感あるトップダウン型の復興とを望む対照的な住民意識があることが明らかになった.今後,地区ごとの復興が進められる段階で,復興に対する意識がどのように推移していくか,見守っていく必要がある.
  • ――東日本大震災後の「相馬野馬追」と中越地震後の「牛の角突き」――
    植田 今日子
    2013 年 42 巻 p. 43-60
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     いまだ大災害の渦中にあって,それまで暮らしていた地域社会を離れることを要請された人びとが,頑なといっていいほどに祭礼を執り行おうとするのはなぜだろうか.本稿はとくにもはや生計を支えない,祭礼だけのために飼われていた馬や牛を救出してまで催行されたふたつの祭礼,東日本大震災後の「相馬野馬追」と中越地震後の山古志の「牛の角突き」に注目し,後者の事例からそれらの敢行がどのような意味を持つ実践であったのかを明らかにするものである.とくに本稿の関心は儀礼的実践が災害そのものをどのように左右し,被災者自身の生活をどう形づくっていけるのか,という点にある.
     慣れ親しんだ地を去った人びとは,震災直後から明日,来週,来月,来年といったい自分たちがどのような生活をしているのか予測のつかない,過去から未来に向かって線状に流れる「直線的な時間」のなかに投げ込まれる.しかし本論でとりあげた祭礼「牛の角突き」の遂行は,人びとがふたたびらせん状に流れていく「回帰的な時間」をとり戻すことに大きく寄与していた.毎年同じ季節に繰り返される祭礼自体がいわばハレのルーティンだが,その催行のために付随的に紡ぎだされていく家畜の世話や牛舎の確保,闘牛場の設置といった仕事は,日常に発生するケのルーティンでもあった.そして一度催行された祭礼は「来年の今頃」,「来月の角突き」といった「回帰的な時間」をつくりだすための定点をもたらす.
     このような事例が伝えるのは,地震直後に当然のように思わず牛のところへ走ってしまう,あるいは馬のもとへ走ってしまう,船のもとへ走ってしまう人びとの社会に備わる地域固有の多彩さをそなえた災害からの回復像である.牛や馬や船のもとへ走ってしまうことを否定するのではなく,その延長上にこそ決して一律ではない防災や復興が構想される必要がある.
  • 松井 克浩
    2013 年 42 巻 p. 61-71
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により,多くの住民が避難を余儀なくされた.新潟県でも,なお5,000人を超える人びとが避難生活を続けている.本稿では,福島県からの広域避難者とそれを迎え入れた新潟県内の団体・個人を対象としておこなってきた聞き取り調査をもとに,広域避難者の現状,避難者支援にみられる特徴,支援の課題について検討を試みた.その結果,①強制避難者(柏崎市)・自主避難者(新潟市)という「棲み分け」がみられ,避難者の属性の違いに対応した支援がなされていること,②支援に取り組む姿勢には一定の共通性(避難者との距離感)があり,その背後には災害経験の蓄積があったこと,③時間の経過とともに避難者が抱える困難は増しており,社会関係の分断が進む中で各個人・世帯が個別的な判断を迫られていること,などが分かった.その上で,ゆるやかなコミュニティの維持と避難者の共同性の回復に向けた支援が課題であることを指摘した.
論文
  • ――1970年代の逸脱をめぐるメディア報道と新自由主義の台頭――
    牛渡 亮
    2013 年 42 巻 p. 73-83
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     本稿の課題は,スチュアート・ホールによって1970年代に展開されたモラル・パニック論の内容を詳らかにするとともに,このモラル・パニック論と1980年代以降に展開される彼の新自由主義論との結びつきを明らかにすることにある.ホールによれば,モラル・パニックとは,戦後合意に基づく福祉国家の危機が進展するなかで人々が感じていた社会不安や恐怖感の原因を,社会体制の危機そのものではなくある逸脱的集団に転嫁し,当該集団を取り締まることで一時的な安定を得ようとする現象である.本稿では,このモラル・パニックを通じて高まった警察力の強化に対する能動的同意を背景に,それまでの合意に基づく社会からより強制に基づく社会への転換が起こり,そのことがサッチャリズム台頭の基礎となったことを示した.したがって,本稿での作業は,ホールが「新自由主義革命」と呼ぶ長期的プロジェクトの端緒を理解するための試みであると同時に,オルタナティヴの不在により今日ますます勢いを増す新自由主義を理解するための試みでもある.
  • ――インドネシアの露天商を事例に――
    大井 慈郎
    2013 年 42 巻 p. 85-96
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     本稿は,インドネシア首都ジャカルタ郊外のブカシ県を調査地に,露天商228人への個別訪問調査から成員の性質を分析することで,先行研究では検討されていなかったインフォーマルセクター成員の「時間帯による差異」とそれに関わる兼業の状況を指摘する.1960年代に途上国の都市における雇用問題が国際機関にて議論され始めてから今日に至るまで,「インフォーマルセクター(政府の公式統計に反映されない多種多様な都市雑業層)」をどのように描き出すかについて,多くの研究が行われてきた.本稿で取り上げる露天商は,生産単位としては「インフォーマルセクター事業」に,職業的地位としては「自営業」にあたるため,多層なインフォーマルセクターのなかにおいて諸々の賃金労働従事者よりも上位に位置する.兼業という観点を考慮し調査結果を分析すると,①自給生産に頼らず露天商としてのみ働く者,②フォーマルセクターで雇用されながらも露天商でも働く者,の2タイプの存在が浮き彫りになる.この2タイプは,朝の時間の日曜市では①,夜の時間のナイトマーケットでは②の傾向が,それぞれ明らかになった.また,本研究は,調査地が首都中心ではなく,近年の東南アジア諸国の発展を牽引する首都郊外であるところから,インフォーマルセクターの「地理的分布による差異」の問題にも言及する.
  • ――「エンターテイナー」をめぐる価値意識に着目して――
    坪田 光平
    2013 年 42 巻 p. 97-107
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,日本社会におけるフィリピン系結婚移民の組織形成と社会移動のあり様を捉えるために,「エンターテイナー」に対する価値意識の重要性を示すことである.そのため本稿では,移民が資源形成する場として注目されてきたエスニック教会とその解体過程を対象とした事例研究を行う.先行研究は,親世代を対象化する際に,同一世代内部の差異には十分な注意を払ってこなかった.しかし,エスニック教会の解体過程を通じて同一世代内部の社会関係を描いた本研究は,同一世代内部に葛藤・対立が存在することを明らかにした.そこで,とくにフィリピン人女性に対してステレオタイプに語られる「エンターテイナー」への価値意識とそのズレは,同一世代内部を分断する境界線としてあらわれ,エスニック教会の存立基盤を危うくする要因にもなっていた.よって,フィリピン系結婚移民を論じる際には,まずその背後にあるホスト社会の背景文脈と深くかかわる形で同一世代内部の社会関係を立体的に描き出す必要があると考える.
  • 本郷 正武
    2013 年 42 巻 p. 109-119
    発行日: 2013/07/19
    公開日: 2014/08/31
    ジャーナル フリー
     本稿はHIVが混入した輸入血液凝固因子製剤によりHIV感染した血友病患者が政府と製薬企業を相手取った訴訟運動(1986~1996年)に参加するプロセスを示した上で,「薬害」概念が訴訟により構築されていく要件を検討する.血液凝固因子製剤によりHIV感染した事実のみで「薬害HIV」は成立しない.感染被害者や医師へのインタビュー調査から,原疾患である血友病,血液製剤により重複感染していたB型・C型肝炎との重要度の比較からHIV/AIDSの問題を認識し,さらに憤りや義憤を超えて,亡くなっていった仲間たちに対する使命や弔いの感情をもつようになるプロセスを明らかにした.こんにち,政府は「薬害教育」を強く推進しているが,本稿は「薬害」問題を開示する社会運動の生起を説明するため,従来の社会運動論の動員論,行為論とは異なる,社会運動の「質」を説明する「第三のアプローチ」を参照し,「薬害」概念を再検討するための枠組みを提示した.
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