2023 年 52 巻 p. 5-18
本稿では「日本において研究分野としての食と農の社会学は確立されていない」という前提に立って,食と農の社会学の研究の現状を概説する.次に筆者が自身の研究経験をもとに考える食と農の社会学を「社会学者が農学的知識を身につけることによって農学者との協働が可能になるような研究分野」と定義し,その特徴を「見取図」と「見取図を記述する言葉」に焦点を当てて説明する.最後に,筆者が考える食と農の社会学の実現を妨げる障壁として「社会学と農学の科学知の体系としての異質性」と「農と食を分断する見えない障壁」を指摘する.それを乗り越えることができれば,社会学にとっては農業生産という新しい研究のフロンティアを開拓することになり,社会学的概念や理論を適用したり,農学者や農業関係者との協働から新しい社会学的概念や理論を生み出すことも可能だろう.また農学にとっても,農学者が社会学の知を理解して,農学者と社会学者との本格的な対話が始まれば,両者の知は相互に補完し合って,農業問題のより深い理解を生み出すことができると考えられる.