2016 年 48 巻 1 号 p. 361-368
本論文では,地域社会の共同性を育む学校美術教育について,ソーシャル・キャピタル概念を基にその意義を明らかにし,その実践の分析枠組みを構築した。まず,地域共同体が空洞化していく現在の状況を踏まえ,学校教育で造形美術文化によるソーシャル・キャピタル形成の意義を明確化した。そして,地域に根付いた芸術教育による感情を媒介としたコミュニケーションによって想像力から共感能力を育むことで,地域の共同性とソーシャル・キャピタルの形成が可能になるとした。そこでは,美術教員が地域のローカルな価値を探索し,それを造形美術文化として引き受けながら表現-学習主題へ転換し,題材を開発し実践していくことが求められる。最後に,そのような実践知を共有可能にする方法論の体系化に向けて,学校と地域社会のソーシャル・キャピタルの構造と連携における美術教員のリーダーシップの図式を示し,実践事例の分析枠組みを提示した。