鉄彫刻が誕生した近代史は,産業革命によって製鉄技術が向上し,鉄材が一般的に普及した時代である。溶接技術は,鉄材を接合するために発達し,彫刻の技法に取り入れられた。初期の鉄彫刻は,鉄材を溶接で組み立てることで,工業的な印象を与えるものである。これは当時の技術革新を象徴していると言えるだろう。しかし,現代における鉄彫刻は多様化し,近代の価値観に沿っていると一概には言い難い。特に着目すべきは彫刻の形態と制作者の関係である。形態は,制作者が鉄という物質にどのようなアプローチを行ったかで決定される。工業技術ではなく,彫刻の技法としての溶接によって生み出された形態は,鉄が持つ本来の性質を引き出すものである。本稿は,主に中原佑介の著述と星野健司の作品を検証し,さらに自作を省察しながら,鉄の溶接による彫刻表現の特質を考察するものである。