ブーバーの思想では「芸術家」による作品制作の根源には人間と出合い対話する〈なんじ〉との関係がある。本論の目的は芸術制作において〈われ-なんじ〉〈われ-それ〉の関係が二重に生じることの意義を確認し,教師の役割と美術教師の教師としての資質を検討することである。従来の研究では,ブーバーの教育思想は教師と子どもとの対話を重視する読み方が主であるが,本論では人間の対話的でない面も認識する教師のあり方に着目し,ブーバーにおいて「世界と関係を持つ人間への教育」とされた教育の目的と,「無為の行為」のようであるべきとされた教育的行為について検討を加える。教師は,人間が世界に持つ関係が二種類あることを承認した上で,〈われ-なんじ〉的関わりを持つ者として子どもを教育する。美術教師は関係の二重性を経験する「芸術家」でもあることで,関係の参加者として子どもを育てる資質が備わっているのである。