2022 年 54 巻 1 号 p. 265-272
ゴードン・マッタ=クラークは1978年に35歳で死去したが,最後までさまざまな活動に取り組んでいた。本稿では,「ロイサイダのための資源センターと環境についての若者のプログラム」と《サーカスまたはカリブのオレンジ》が,その活動の最後の時期に平行して取り組まれた経緯を資料によって確かめる。「ロイサイダ」のプロジェクトは,荒廃した建物を改装し,若者を教育するプログラムだった。一方,《サーカスまたはカリブのオレンジ》は美術館の依頼で行われた,複雑な彫刻的形態を持った作品である。しかし本稿では,これらを政治的なプロジェクトと芸術的なプロジェクトとして別々に捉えるのではなく,両方が共通した関心に根ざしていたことを明らかにする。2つのプロジェクトの共通点を見れば,マッタ=クラークが,空間の自由な改変の可能性を,芸術家だけでなく人々のものであると考えていたことが理解できる。