本研究は,今後の学校教育における対話型鑑賞の展開の方向性を明らかにすることを目的とする。近年,学校教育での鑑賞教育において,対話型鑑賞の方法を取り入れる試みが行われている。だが,Visual Thinking Strategies(以下VTSと略)に代表される対話型鑑賞に関する研究が進むことで,いくつかの新たな対話型鑑賞の方法も提案されてきた。本研究では,まずVTSについての先行研究を考察する中で,VTSが特定の美的発達段階にある鑑賞者を対象にした方法であることを確認し,異なる美的発達段階に移行するためには,対話型鑑賞の方法の展開が必要となることを明らかにする。次に,対話型鑑賞の方法の展開の方向性として,「対立関係が消去されるのではなく維持されるような対話の場」の実現が求められることを明らかにし,そのような場がいかにして実現できるのかを,対話型鑑賞の実践事例を手がかりにして検討する。