労務管理研究の対象は、1980年代、そして2010年代に大きな変容を遂げた。前者は社会・経済システムとのつながりを持つニューディール型労使関係システムの変容により、後者はHPWSへのグローバルな収斂とAI、ICT、ビッグデータを駆使したネットワーク型ビジネスモデルの拡大によってである。
Kaufman(2003)による企業外(external)、企業内(internal)の概念、Kaufman(2014a)が指摘する企業外と企業内の研究対象の分離、そしてKaufman(2014b)によるHPWSへのグローバルレベルでの収斂は、AI、ICT、ビッグデータ等を駆使したネットワーク型ビジネスモデルへとつながり、ネットワークの内と外の分断をもたらした。ネットワークの内側では職務範囲を限定することができないタスクの割合が多いジョブ、外側には範囲が限定された定型的タスクの割合が多いジョブが分かれることになり、後者の労働条件が低位に固定化される。いったんネットワークの外側に位置付けられれば、内側に参加することは困難となる。この現実がSDGsに労務管理上の課題が数多く含まれる背景にある。本稿は、労務管理の現在地がSDGsの目指す持続可能な経済成長よりも企業利益の最大化を優先しているとみて、一国およびグローバルに持続可能な経済成長をめざし、「人間らしい経営労務を求める」研究の方向性を提示するものである。