2019 年 14 巻 p. 1-15
歴史的建造物の活用には,修復・保存と再利用の大きく2 つの方法がある.ヨーロッパの歴史都市といえども,文化財指定などの保存措置を受けた物件は比較的少数であり,都市の建造環境の中で大きな割合を占めるのは,増改築を重ねながら再利用されてきた建造物である.本稿は,歴史的建造物の継続的利用を可能とする用途の設定について,とりわけ用途転換に着目して分析する試みである.そのために,巡礼の町として世界的に知られるサンティアゴ・デ・コンポステラ(スペイン)の歴史地区を調査対象に選び,29 件(建物数では35 件)の歴史的建造物を選定して,2 度にわたる現地フィールド調査を実施した.調査の結果,大多数の物件について用途転換が確認されるとともに,建造物とそれを包み込む建造環境の形態をいかした機能が選択されていることが明らかになった.形態とそこから利用価値を引き出す機能の間には,もちつもたれつの双方向的な関係が存在する.そうした弁証法的関係は,持続的であると同時に徐々に変化する都市の空間文脈の生成を通じて,個性豊かな都市づくりに貢献していると考えられる.