植生学会誌
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原著論文
神奈川県三浦半島の岩石海岸における草本群落の立地条件および保全上重要な種との結びつき
鐵 慎太朗星野 義延吉川 正人
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2021 年 38 巻 1 号 p. 17-35

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抄録

1. 神奈川県東部の三浦半島の9箇所の岩石海岸に成立する草本植生を対象に,① 植生を構成する群落の把握,② 各群落の立地条件の解明,③ 保全上重要な植物種と群落の関連の把握を行った.

2. 調査地の植生はmodified TWINSPANにより11群落に区分され,第一分割では5群落 (A-E) を含むグループと6群落 (F-K) を含むグループに二分された.主に,前者は湿地生の植物で構成される群落,後者は海崖生の植物で構成される群落だった.

3. 区分された11群落を調査地周辺の既存群集と比較すると,A-Eはイソヤマテンツキ群集やナガミノオニシバ群集,シオクグ群集といった塩沼地生の群集に,シバが優占するFとGはツボクサ-シバ群集などに,Hはハマホラシノブ-オニヤブソテツ群集に,I,J,Kはイソギク-ハチジョウススキ群集に相当,類似していた.

4. A-Eの5群落は,主に低海抜で湿った平坦地の隆起海食台 (もしくは波食棚) 上に成立し,各群落は水文環境 (海水もしくは淡水の供給,滞水域の有無など) や水質 (塩分濃度 (EC) の違い) の違いに応じて成立していると考えられた.一方,F-Kの6群落は,主に相対的に高海抜で乾いた海食崖上に成立し,土壌硬度,傾斜角度や関東ローム層の有無などから推測される立地の物理的な安定性などが群落の差異に関わっていると考えられた.

5. 調査スタンドでは保全上重要な植物種 (レッドリスト掲載種,地域固有分類群) が多種記録された.岩石海岸上の草本植生は,三浦半島において生物多様性の保全上重要な存在であるといえる.

6. 保全上重要な植物種は特定の群落 (B,C,D,G,J,K) に偏在していた.これらの群落の多くは緩傾斜地に成立しており,岩石海岸において相対的に人為的影響 (踏圧など) を受けやすいと考えられた.岩石海岸における草本群落や植物種多様性の保全にあたっては,立地環境への人為影響の程度や人為改変に対するぜい弱性が群落間で異なることに留意する必要があるといえる.

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