植生学会誌
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原著論文
インドネシア・東ジャワのクルーブ(Syzygium aromaticum L.)生産混合栽培農地における下層植物の出現とその空間的不均一性
Adi SETIAWAN伊藤 哲光田 靖山岸 極平田 令子Yasa Palaguna UMAR
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2021 年 38 巻 1 号 p. 37-47

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抄録

クルーブ(clove: Syzygium aromaticum L.)は,その葉から花・芽がクルーブオイル生産されることから,インドネシアにおいて重要な換金作物の一つとなっている.近年,クルーブは単作栽培(モノカルチャー:MON)で生産されることが多いが,MONはしばしば生物多様性を低下させる.本研究では,クルーブを他種と混植して栽培する混合栽培農地(MIX)の植物種多様性保全機能を評価する目的で,MIXの下層における維管束植物の出現傾向および林床の微環境をクルーブMONと比較した.MIXとMONそれぞれ1林分に20 m×100 mのプロットを設置し,その中に規則的に配置された1 m×1 mのコドラート20個において,出現した維管束植物を記録するとともに,土壌含水率(SWC),開空度(SF),コドラートの総植被率(UVC)およびリター被覆率(LC)を計測した.2プロット全体で46種が確認され,うちMIXには40種,MONには17種が出現した.MIXではMONよりも出現種の生活形組成が多様であり,出現種の半数を超える22種が森林生植物であったが,MONでは森林生植物は4種しか出現しなかった.また,MIXでは在来種の種数が23種と多かったが,MONでは外来種の比率が高く,在来種は8種であった.さらにMIXではコドラートあたりの平均種数が多く,コドラート間の出現種の非類似度も高かった.これらの結果から,MIXはMONに比べて森林生植物や在来種の多様性を保全する機能が高いと考えられた.林床の微環境のうち,SWCとSFはMIXとMONでほぼ同様の値を示し,今回調査したMONの物理環境はMIXと同等に不均一であった.コドラートあたりの種数とSFの間にはMIXとMONの両方で正の相関が認められた.一方,MONのUVCとLCはMIXに比較して値の変動幅が狭く,UVCは30%以下,LCは6%以下であった.UVCはMIXとMONの両方で出現種数と正の相関が認められたが,LCはMIXでは種数と負の相関が,MONでは正の相関が認められた.以上の結果から,MONではプロット全面で高頻度に行われるクルーブリターの採取が,地表攪乱として植物の定着を阻害することにより出現種数を減少させ,また光環境の不均一性による植物種多様性の維持・創出効果を阻害していると考えられた.これに対してMIXでは,リター採取に伴う地表攪乱がMONよりも緩和されることにより,物理環境の不均一性の効果が担保され,これがより高い種多様性の維持につながっていると結論付けられた.

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