植生学会誌
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原著論文
兵庫県の棚田に分布する畦畔法面草原の種組成・種多様性と気候条件の関係
江間 薫黒田 有寿茂石田 弘明
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2021 年 38 巻 2 号 p. 161-173

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抄録

1. 伝統的な棚田の畦畔法面に広がる草原(以下,畦畔法面草原)は,数百年以上にわたって利用・管理されてきた半自然草原である.本研究では,兵庫県の日本海側地域から淡路島(瀬戸内海側地域)までの広範囲を対象に畦畔法面草原の植生調査を実施し,その種組成・種多様性が地域によってどのように異なるのか,また,種組成・種多様性と気候条件の間にどのような関係があるのかを明らかにすることを目的とした.

2. 植生調査データを一覧表にまとめて表操作を行った結果,調査対象とした畦畔法面草原は三つの群落単位(タイプA,タイプB,タイプC)に区分された.

3. 兵庫県を北部(本州部の日本海側地域),南部(本州部の瀬戸内海側地域),淡路島の3地域に区分したところ,タイプAとタイプCはそれぞれ北部と南部だけに分布し,タイプBは南部と淡路島に比較的多く分布していた.

4. DCAによるスタンドの序列化を行った結果,スタンドは群落単位ごとにまとまって分布する傾向がみられ,種組成が群落単位間で明らかに異なることが確認された.また,種組成は北部,南部,淡路島の間で異なる傾向が認められた.

5. 群落単位間の種組成の相違はタイプAと他の2タイプの間で特に大きいことがわかった.また,暖かさの指数,年降水量,冬季降水量,非冬季降水量,最深積雪はタイプAと他の2タイプの間で有意に異なっていた.さらに,DCAの1軸スコアとこれらの変数との間には強い有意な相関が認められた.これらのことから,タイプAと他の2タイプの種組成の相違は気温,降水量,降雪量の違いを複合的に反映していると考えられた.

6. 調査区(1 m2)あたりの在来種数と多年生草本種数はタイプB,タイプCよりもタイプAの方が有意に多かった.順位相関分析の結果,これらの種数と暖かさの指数,最深積雪の間にはやや強い有意な相関が認められた.このことから,群落単位間の在来種数と多年生草本種数の相違は気温と降雪量の違いを複合的に反映していること,また,気温と降雪量はこれらの種数に対してそれぞれ負の相関と正の相関があることが示唆された.

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