植生学会誌
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原著論文
上武山地の急峻な尾根にみられるオノオレカンバ林の立地条件と更新様式
小川 滋之
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2022 年 39 巻 2 号 p. 77-84

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抄録

1. オノオレカンバはカバノキ属の落葉広葉樹である.他のカバノキ属樹木とは種子形態や個体寿命など異なる特徴を有するが,これまで研究対象にされることが少なかった.

2. 本研究では,埼玉県上武山地の城峯山天狗岩の急峻な尾根にみられるオノオレカンバ林が形成される立地条件と更新様式を考察した.

3. 主要林冠構成種であるオノオレカンバとコナラ,ヤシャブシを対象に,傾斜角度と土壌厚の生育立地の計測,土壌の薄い場所と厚い場所におけるオノオレカンバ林の構造の調査を行った.

4. 主要林冠構成種3種を比較すると,オノオレカンバは土層厚10 cm未満の緩傾斜地に,コナラは土層厚10 cm以上の緩傾斜地に,ヤシャブシは土層厚10 cm以上の急傾斜地に分布が偏った.オノオレカンバは,チャート岩による土壌の薄い場所において個体定着できる特性があること,この場所ではコナラなどの高木性樹木が分布しにくいこと,これらが関与することで林分を形成していると考えられた.

5. 城峯山天狗岩のオノオレカンバ林は2つの更新様式がみられた.土壌の薄い場所では,構成種のほとんどが樹高10 m未満であり,主要林冠構成種であるコナラの相対優占度が低かった.林内でも後継樹が生育するのに十分な明るい林床が保たれ,幼樹から成木へと順次更新する様式により林分を維持していると考えられた.土壌の厚い場所では,樹高10 m以上に達する林冠構成種が多くみられ,コナラの相対優占度も高かった.林内では後継樹が生育していないことから,シラカンバなどの一斉更新のカバノキ林に近い様式がある.しかし,広範囲への散布に向かない種子の形態と生産量から,小林分や単木としてのみ分布していると考えられた.

6. オノオレカンバは,急峻な尾根の落葉広葉樹林において土地的極相林を形成する樹種であると考察された.

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