2008 年 66 巻 3-4 号 p. 147-159
フィリピン中部セブ島の属島であるオランゴ島の干潟に埋棲するスジホシムシにフィリピンハナビラガイSalpocola philippinensis (Habe & Kanazawa, 1981)が着生する。2006年10月に採集したスジホシムシ25個体中14個体にフィリピンハナビラガイが着生しており,いずれも単独でスジホシムシの後端に付着していた。組織切片を作成した7個体はすべて雌であった。鰓の特徴として,内半鰓に襞が細かく刻まれる点を認めた。内臓嚢は側方に分岐する突起状を呈し,卵巣と消化腺を具える。足伸出筋は前閉殻筋内を通過する。繊毛の生えた管が内鰓室と上鰓室を結ぶ。貯精嚢を欠くが,鰓上に精子を擁する物体が認められるという,他種には見られない特有の構造が認められ,その正体について考察した。殻の形態および組織学的手法を用いて観察した内部形態に基づき,本種を従来のハナビラガイ属Fronsellaに含めるのは適当でないと判断し,新属としてフィリピンハナビラガイ属Salpocolaを創設した。これまでフィリピンハナビラガイが属すとされていたハナビラガイ属Fronsella Laseron, 1956はオーストラリア産のF. adipata Laseron, 1956をタイプ種として創設され,他に同じくオーストラリア産のF. reversa Laseron, 1956を含む。しかしフィリピンハナビラガイは,これら2種には見られない,左右両殻に明瞭な前側歯を有する点で異なる。さらに本種は,近縁のユンタクシジミ属Litigiella Monterosato, 1909諸種との比較においても異なる内部形態上の特徴を有することから,新属を創設した。