Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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短報
徳島県大毛島から得られたナルトギセル(新種)
湊 宏
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2014 年 72 巻 1-4 号 p. 135-138

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抄録

最近,徳島県鳴門市の大毛島から新たにミカドギセル属の未記載種が見つかったので,ここに記載する。
Tyrannophaedusa (Tyrannophaedusa) fukudainadai n. sp.ナルトギセル(新種)
貝殻は本属の中では小形(11個体の平均殻高12.8 mm, 平均殻径3.08 mm),棍棒形状,螺層は8.5層で淡黄白色からクリーム白色を呈する。各螺層はわずかに膨れ,縫合は浅い。殻表にはかすかな成長脈をもち,光沢がない。殻口はむしろ小形で洋梨形状を示し,殻口の外唇の背後には顕著な隆起部(クレスト)が認められる。上板は殻口縁に達して,むしろ高く位置してやや傾くが,貝殻の内部では螺状板とは接続しない。下板は後退的,不顕著で殻口からは見えない。下軸板は殻口縁にかろうじて現れる。大半の腔襞は前面に位置する。主襞はむしろ短く,前面から側面にいたるが,殻口からは見えない。月状襞は真っ直ぐで顕著,傾いた上腔襞と下腔襞と繋がっている。下腔襞は上腔襞よりも長く,月状襞と繋がった付近からは,さらに下方に伸びている。上腔襞は下腔襞と長さを比較して,短い。閉弁の弁状部は長い舌状の形状を示し,殻軸側は少し肥厚しながら,先端部に向けて多少突き出る。柄状部の基部に多少の切れ込みがある。生殖器の特徴は,陰茎鞘の始めの部分が肥厚して膨れていること,さらに受精嚢柄部の長さと盲管の長さの比較では,後者がはるかに短いことが特徴である。
タイプ標本:ホロタイプ, NSMT-Mo 78633, 殻高12.7 mm, 殻径5.0 mm。
タイプ産地:徳島県鳴門市大毛島。
分布:徳島県(タイプ産地以外からは記録がない)。
比較:貝殻の外観と殻色から,本新種は約200 km 離れた高知県鵜来島をタイプ産地とするスギモトギセルTyrannophaedusaDecolliphaedusasugimotonis sugimotonis Minato & Tada, 1978に最も類似するが,殻口背後に強い隆起部(クレスト)をもつこと,すべての腔襞(プリカ)が前面(腹面)に位置していること,上・下腔襞が月状襞(ルネラ)と繋がって,I型となって前面に位置すること,生殖器の陰茎鞘始端部が異常に肥厚すること,受精嚢部までの長さと盲管の長さの比較では後者の方が多少短いことで識別できる。貝殻の腔襞が前面に位置する形態がI 型になることから,本新種はまた伊吹山系に広く分布するシリボソギセルTyannophaedusaTyannophaedusaiotaptyx (Pilsbry, 1900) に類似するが,後者は螺層が11層と多いこと,殻色が淡黄褐色であること,殻口外唇の背後に顕著な隆起部がないこと,さらに生殖器の陰茎鞘が細くて膨れない形態であることによって,本新種とは容易に識別される。なお,本種は多田・他 (2013: 52)により“Tyrannophaedusa sp. ナルトギセル”として報告されている。

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© 2016 日本貝類学会
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