1988 年 47 巻 2 号 p. 104-120
人工採苗されたクロアワビ稚貝を用いて, 野外への放流と水槽内での活動, 食害実験を行った。放流実験では, 平均15.29mmの稚貝1, 688個体をコンクリートブロックで造成された約20m^2の人工礁に放流し, 礁内に残存する個体の追跡調査をした。放流後個体数は急激に減少し, 10日後で339個体(20.1%), 約3か月後には12個体(0.7%)が礁内に残るだけとなり, その後は低密度のまま安定した。放流場所およびその周辺の生物・物理的環境はよく調査されているので, それらを用いてこの急激な礁内の個体数の減少と低い残存率を検討した。その結果, オオバモク群落に代表される放流場所は砂の影響が極めて強い環境なので, 稚貝にとって十分な生息場所がなかったことが主な原因として考えられた。稚貝50個体を, 底に砂を敷きシェルター置いた水槽に放養し, シェルターより出て活動する個体を, 2日間に渡って定期的に観察, 計数を行った。日中はほとんどの個体がシェルターの中にいるが, 暗くなるとすぐに活動を始め, 3∿4時間後にシェルターから出る個体が最大となり, 明け方に向かうにつれて少なくなるという, 顕著な活動の日周性が観察された。稚貝と放流場所でよく見られる8種類の動物を, それぞれ同一の水槽に収容し, 食害の有無を調べた。そのうち, ヤツデヒトデ, ベニツケガニ, ヒヅメガニの3種に食害が認められ, 種類によって, 食害された稚貝の貝殻の損傷に違いが見られた。そこで, 放流場所で発見し持ち帰った放流稚貝の死殻で食害動物を推測し, 食害も放流個体の急激な減少に関与していると推測した。これらの結果と今まで報告された研究結果を基にして, クロアワビの稚貝期における生態を推測した。