2017 年 1 巻 2 号 p. 121-130
本研究の目的は、保育内容総論の教科書において「保育の質」がどのように取り扱われているか、その言説の性格を明らかにするものである。本研究では、テキストマイニングソフト「KH コーダー」を用いた計量テキスト分析を行った。
「質」をキーワードにして分析を進めた結果、「保育の質」に対する記述は、保育者から見た「実践の質」を議論するパターンと、子どもから見た「体験の質」を議論するパターン、以上の二つのパターンの言説があることがわかった。現状、「保育の質」というのは、もっぱら、プロセスの質であり、PDCA サイクルを踏まえた保育者の自己研鑽によって変わるようなものだけが「質の向上」の対象として語られている。こうした語り方の問題は、第一に数値化しにくい側面はそもそもPDCA による質向上の議論から抜け落ちてしまうことであり、第二にPDCA サイクルを回しても、保育の構造の質、労働の質の改善は期待できないことが見えなくなることである。