抄録
水稲種子をPIN水溶液を用いて発芽・生育させたところ, 培地中のPINは発芽種子に取り込まれ数種類の化合物に代謝された.これらのうち主要な代謝産物(PIN誘導体)を, 発芽種子から熱水抽出, イオン交換クロマトグラフィー, ゲル濾過及び活性炭吸脱着を行って, 融点167℃の無色粉末として単離した.このものは, 各種のスペクトルからPINの4-又は5-位のヒドロキシメチル基にヘキソースが結合したものであると考えられた.一方, 本化合物はジアゾ化スルファニル酸と反応して赤橙色を呈したが, ホウ酸の存在下では反応しなかった.酸加水分解によりPINとグルコースが生成した.従って5'-置換PINのグルコシドと推定された.又β-グルコシダーゼによりPINとグルコースに加水分解されたが, α-グルコシダーゼにより分解されなかった.遊離されたグルコースはD-グルコースオキシダーゼによりグルコン酸に酸化された.これらの結果から, PIN誘導体は5'-O-(β-D-glucopyranosyl)pyridoxineであると結論した.