雑草研究
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キレハイヌガラシ (Rorippa sylvestris Besser) 中におけるグルコシノレートの化学的動態
水谷 純也山根 昭彦
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1991 年 36 巻 1 号 p. 68-73

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抄録
キレハイヌガラシは欧州原産のアブラナ科帰化雑草である。道央, 道東に分布し, 1950年代にはすでに有害雑草と認められていた。この雑草は繁殖力が強く, まおりの他の植物領域 (テリトリー) にも侵入し, アレロパシーを示すものと考えられている。キレハイヌガラシ中で, 植物成長阻害活性が高く, 量的にも多い hirsutin (8-methylsulfinyloctyl isothiocyanate) の動態を追う目的で, 前駆体であるグルコシノレート画分を検索した。キレハイヌガラシ新鮮根の80%エタノール抽出物から3種のグルコシノレート, glucohirsutin, 4-methoxyglucobrassicin および deoxyglucohirsutin を主成分として単離した (Fig. 1)。
まず, glucohirsutin および deoxyglucohirsutin に注目し, その含量の季節的変動を調べた。横走根, 垂直根は共に栄養成長期, 開花期にそれぞれ大きなピークが観察されたが (Fig. 2, 3), 地上部は開花期後半のみに鋭いピークが観察された (Fig. 4)。deoxyglucohirsutin は酸化して glucohirsutin を生成すると考えられることより, 両者を加えたものを hirsutin capacity とし, 比較検討した (Fig. 5)。その結果, 相対的に横走根は高く, 5月中旬には4500μg/fresh wt. gに達した。
また, キレハイヌガラシの部位別によるグルコシノレート含量を測定した結果, 花および実では高含量を示すことが明らかになった (Table 1)。地上部の開花期後半の鋭いピークは (Fig. 4, 5), 花や実の高含量のグルコシノレートに依存しているものと考えられた。さらに, 横走根および垂直根において6月中旬から7月後半にかけて, deoxyglucohirsutin 含量が相対的に glucohirsutin 含量よりも高いことが観察された (Fig. 2, 3)。このことより, deoxyglucohirsutin の酸化よりもグルコシノレートの排出あるいは加水分解が優先的に行なわれている可能性が考えられた。
一方, 4-methoxyglucobrassicin 含量の季節的変動を検討した結果, 横走根および垂直根では栄養成長期のみにピークが観察され, glucohirsutin の様な開花期のピークは観察されなかった (Fig. 6)。特に栄養成長期の横走根で著しかった。さらにミロシナーゼにより 4-methoxyglucobrassicin から生成する 4-methoxyindole-3-acetonitrile の発根促進活性を測定するためRaphanus root formation test を行なった。その結果, IAAの約50%の発根促進活性を有していることが明らかになった (Fig. 7)。
以上の結果より, 栄養成長期の発根は4-methoxyglucobrassicin から生成する4-methoxyindole-3-acetonitrile の発根促進活性に依存していると考えられ, また glucohirsutin および deoxyglucohirsutin の相対的な量比から6月中旬から7月後半にかけては, グルコシノレートの排出あるいは加水分解 (hirsutin 等の生成) が優先的に行なわれ, アレロパシーを示す可能性が示唆された。
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© 日本雑草学会
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