湿地研究
Online ISSN : 2434-1762
Print ISSN : 2185-4238
尾張丘陵南部の変成岩体における湧水の湧出量,水温および水質の季節変化
愛知県日進市の岩崎御岳山における事例研究
野崎 健太郎 渡邊 明香里松本 嘉孝
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2021 年 11 巻 p. 59-73

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抄録

尾張丘陵南部において近接する変成岩体(ホルンフェルス)と砂礫層からの湧水,および小河川の水量,水温,水質の季節変化を調べた.湧水は,河川水と比べ,水温の季節変化が小さく,濁度や色度が低く清澄で,溶存酸素が低濃度(2.6 mgO2 L-1)といった性質が共通して見られた.しかしながら2 つの湧水では pH と溶存無機物質濃度に明瞭な違いが生じた.変成岩体からの湧水は中性に近い微弱酸性(pH 6.0)で溶存無機物質濃度が高く(電気伝導度 16 mS m-1),砂礫層からの湧水は弱酸性(pH 4.7)で低濃度(電気伝導度 5 mS m-1)であった.この違いが生じた仕組みを地下水の浸透過程と土壌の酸緩衝機能から考察した.変成岩体からの湧水は,地下水の滞留時間を反映する珪酸濃度が 26 mgSiO2 L-1 で,砂礫層からの 10 mgSiO2 L-1に比べて高く,変成岩体では雨水の地中への浸透速度が緩やかであることが示唆された.一方,土壌表層では,有機物の分解によって生じたアンモニア態窒素の硝化や生物の呼吸により水素イオン(H+)が供給され,地下水は酸性となるが,それが浸透する過程で基岩の化学風化に消費され酸性は弱まる.変成岩体は硬く,その内部は砂礫層に比べ化学風化を受ける場が多く残り,水素イオンの消費に伴い,基岩からの無機物質の溶出が砂礫層よりも多くなると考えられる.湧水中の溶存無機態窒素濃度は,2 地点で同程度であったが,砂礫層では,ほぼ硝酸態で存在し,変成岩体では,アンモニア態が 50% を占めていた.この原因として,pH 6 の微弱酸性と微好気性を好む鉄細菌による硝酸還元の可能性を指摘した.

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