湧水湿地が消滅した後も,湿地植物が土壌中にシードバンクを保持することを実生発芽法によって確認した.愛知県知多半島において,およそ 30-10 年前まで湧水湿地が存在し,湿性草原が成立していた場所 3 カ所と,湿性草原が現在も成立している湧水湿地 1 カ所の土壌を採取してまき出したところ,そのすべてから湿地植物が発芽した.湧水湿地の存在していた場所の土壌からは,トウカイコモウセンゴケ・イヌノハナヒゲ類・ミミカキグサ類・アリノトウグサが多数発芽したが,シラタマホシクサやヌマガヤのような主要な群落構成種を含む,過去に記録のある種の多くは発芽しなかった.現存する湧水湿地の土壌からも,地上部にみられた種の一部のみしか発芽しなかった.より詳細な調査が必要であるものの,湧水湿地に成立する湿性草原(鉱質土壌湿原)の構成種の一部は,地上植生の消滅後も長期間にわたり土壌シードバンクを形成するが,すべての種がそうではない可能性がある.