植田邦彦が1989 年に提唱した「東海丘陵要素」は,東海地方,周伊勢湾地域の低湿地(湧水湿地)を中心に生育する固有・準固有あるいは隔離分布する植物の分類群を指す.この植物地理学的な概念・用語は,東海地方の丘陵地に広く分布する湧水湿地の植物相の特色をよく捉えたものとして,湧水湿地の生態解明や保全・利用に関わる幅広い学術分野に受容され,社会的な普及も進んだ.一方,こうした植物地理学の範疇を超えた使用の広がりの中で,この概念・用語が正しく理解されないリスクが増している.この用語・概念の本来の意味を正しく伝えるために,植物地理学を専門としない読者が想定される場合には,例えば東海丘陵要素の植物群などと補い,語の表す対象を明示するといった工夫が考えられる.