湿地研究
Online ISSN : 2434-1762
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干潟再生に対するリスク・ベネフィット言説: 有明海諫早湾干拓潮受け堤防排水門「開門」をケースに
山下 博美
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2016 年 6 巻 p. 3-17

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抄録

地域で構築される干潟再生案に対する言説理解の一端を担う為,本稿は有明海諫早湾干拓潮受け堤防排水門「開門」案を例に,2011 年に諫早市内及び近郊で行われたインタビューとテキスト調査の結果を紹介する.排水門開門のベネフィットに関しては,海洋環境改善,農業環境改善,観光業への弾み,過去の誤った意思決定の改め,自然共生を学びなおす機会の取得,住民間の争いの終結が言及された.一方リスクとしては,水害による「生命と財産」の喪失,農業用水喪失,農地塩害,漁業被害,現在の生態系破壊,改善に繋がるか分からない行為により発生する他のリスク享受,税金の無駄遣い,一部の人のための資金使用が挙げられた.一見まとまりなく見える要素も,干潟再生の賛成・反対に関わらず,5 つの核となる要素に整理するできることが分かった.それらは,①「再生行為の意義」,②「喪失の経験と不安」,③「公正さの担保」,④「未来への展望」,そして⑤「対立を超える言説(和解の言説)」であった.

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© 2016 日本湿地学会
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