文化人類学研究
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特集1 「大地的なるもの」の人類学
真理・論争・監視
——数理的「大地」をめぐる存在論的政治——
森下 翔
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2024 年 25 巻 p. 22-46

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抄録

 本論は、大地の「形」と「大きさ」をめぐる科学研究(測地学)の歴史の記述をつうじて、3つの科学研究における探究の在り方(真理・論争・監視)について考察することを試みる。「形」や「大きさ」といった概念は、一見すると一意に確定可能な対象の属性に見える。しかし大地の「形」の科学的観念は、真球という定性的な形状から扁平率が問題となる楕円体へと、また純粋に幾何的な観念から重力によって定義される物理的な意味合いを帯びた観念へとその内容を変化させてきた。重力場(ジオイド)として規定される現代の大地の形状についての科学的概念は、少数の静的なパラメータによって定義されるものではなくなった。さらに「動的な地球観」の時代に至って、大地の形状は時間変化するものとみなされるようになっている。こうした観念の変化は、科学実践そのものの在り方の質的な変化と手を携える形で共進化してきたものである。本論は、これらの観念の変化の背景にある科学実践の変化を、「真理の時代」「論争の時代」「監視の時代」という3つの種類の存在論的類型に整理して提示する。地球科学においては19世紀中頃以来先駆的に支配的となった「監視の時代」の存在論の類型であるが、現代においては地球科学という個別の科学分野を超えて、科学技術一般の典型的な存在論的類型となっているように思われる。「監視の時代」の存在論においては、もはや思弁に基づく対象の真なる表象が問題となるのではなく、その時間変化をリアルタイムに追跡するデータやイメージなどのアウトプットの継続的産出が問題となる。人びとの多くは、監視のための存在論的ネットワークを維持するためのメンテナンスを担う存在として、存在論を構成する要素の一部として動員される。継続的に産出される生成物と人びとが取り結ぶ関係の在り方こそが、「監視の時代」における社会の重要な課題となるだろう。

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