家族内における親密性と平等性は、不安定な位置関係にあることが論じられてきた。とくに夫婦関係では、「愛情」が関係の前提とされることで、ほかの関係よりも一層ジェンダー不平等がとらえがたいことが想定される。本稿は、夫婦の親密な関係がジェンダー平等であるとは、どのような状態を指し、どのようにして「平等」を考えればよいのかを明らかにすることを目的とする。
まず、「親密財」という概念を参照して、親密な関係では平等や公平を一義的にとらえがたく、通常の「財」のように分配の問題に還元しきれないという難点を指摘した。この難点をふまえて親密な関係におけるジェンダー平等を考えるうえで、「ケア」をキータームとしたフェミニズムの議論に着目し、成人間の親密な関係を恋愛感情にもとづく関係ではなく、「人格的ケア関係」としてとらえる視点を示した。
さらに、有賀美和子(2011)の『フェミニズム正義論』、およびミノウとシャンリー(Minow & Shanley, 1997)の関係的権利論に立脚し、人格的ケア関係から得られる親密財を権利として人びとに保障しつつも、その権利に伴うケアの責任の観点から不正義を可視化し、ジェンダー平等をめざす視座を提示した。