女性学
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特集
  • ―加害者が責任を取らされ、被害者の思いが受け止められる社会への道のり
    北仲 千里
    2024 年31 巻 p. 6-12
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

     女性が虐げられる社会では、女性はもっぱら性的存在として扱われ、同意のない性的行為が強制される。男性は女性に性加害をしてもいいんだと教えられ、男性の仲間から女性を性的に征服することが称揚され、そして、被害者の方に落ち度があるのだという見方が広く信じられる。被害は恥として隠され、話題とされず、理解されない。

     それに対し、フェミニズムその他の運動は、性暴力をめぐる神話や偏見を指摘して修正し、トラウマなど性暴力の被害の深さ、影響の大きさを示す研究を発展させ、地位や立場を利用した性暴力に「セクシュアル・ハラスメント」と名前をつけてきた。そしてこれは、社会を覆う「レイプ・カルチャー」の問題であるとし、「No means Yes」枠組から脱却して、加害者に責任を取らせる社会への転換を求めてきた。

     日本でもこれまで少なくない人がこの問題に取り組み、一歩一歩状況を変え、2017年には刑法性犯罪規定の110年ぶりの大幅改正などがなされた。そして、その後の#MeTooや、フラワーデモなどの大きなうねりによって、現在、さらに大きな状況の変化が生まれ、新しい政策も出てきている。「性暴力とはどんなふうに起きているのか」「性暴力はどう報道され、語られているのか」「加害者に責任を取らせる「性犯罪」規定が、今回さらに、どう議論され、改正されていくのか」などの視点から考えていきたい。

  • 周藤 由美子
    2024 年31 巻 p. 13-22
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

     性暴力被害者のためのワンストップセンターは現在、各都道府県に最低1か所は設置され、日々、被害者の相談を受けている。性暴力は被害申告率が低いと言われているが、「加害者を許せない」「新たな被害者を作らないために」と警察に被害届を出そうと考える被害者も少なくない。しかし、警察に相談しても、被害者が「暴行・脅迫」を受けて「抵抗したが被害にあった」もしくは「とても抵抗できない状況だった」ことが立証されないと被害届が受理されないなど法律の壁があった。2017年には110年ぶりに刑法性犯罪が大幅に改正されたが、被害者に抵抗を要求する「暴行脅迫」要件は見直しされなかった。2019年には4件の一審無罪判決が相次いで公になり、「再度の法改正が必要である」と全国の当事者・支援者が声を上げるフラワーデモが巻き起こった。そして2023年6月に刑法が改正され「同意のない性交は犯罪である」という「不同意性交等罪」になった。しかし、解釈・運用が適切に行われるのか、現場でのチェックが必要である。政府も性犯罪・性暴力対策強化策を打ち出しているが、ワンストップセンターの根拠法がなく、財政面での基盤も弱く、支援内容の地域格差が大きいことも課題である。

  • ―同意のない性的行為は処罰されるのか
    中山 純子
    2024 年31 巻 p. 23-35
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

     日本の刑法では、強制性交等罪・準強制性交等罪が成立するためには、性交等に同意していないだけでは足りず、相手の抗拒を著しく困難にする程度の暴行又は脅迫が用いられていること、あるいは、これと同程度の抗拒不能状態で性交等がされたことが必要とされてきた。フリーズして抵抗できなかったら、抵抗していないから同意していた、同意があったと思ったと弁解される。抵抗したら、抵抗できているから抗拒不能ではないと評価される。暴行・脅迫要件、抗拒不能要件が、同意のない性交等の被害者をずっと苦しめてきた。

     2017年6月、110年ぶりに刑法の性犯罪規定が改正されてから6年がたった2023年3月、暴行・脅迫要件、抗拒不能要件を、「同意しない意思を形成し、表明し、若しくは全うすることが困難」という要件とし、罪名を「強制性交等罪」から「不同意性交等罪」へと改正する法案が国会に提出された。同改正案では、性交同意年齢(相手の同意の有無を問わず犯罪となる年齢)が、13歳未満から、一応16歳未満に引き上げられている。また、地位関係性を利用した性犯罪に対処するために、同法案には、「不同意性交等罪」の規定の中に、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させ」という文言が例示されている。今回の改正案が、同意のない性交等の被害を処罰対象とするのに十分な改正となるのか。改正に至る経緯を含め、議論する。

  • ―当事者性と報道、その背景
    吉永 磨美
    2024 年31 巻 p. 36-45
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

     本報告は、日本における性暴力・性被害に関するメディアを取り巻く現状について、被害当事者の立場、被害者を支援する立場、報道する立場、といった三つの立場から考察する。当事者性とは公権力が主である取材先から女性記者が性暴力、セクハラという性被害を受けてきた。女性記者が仕事を続ける上で、構造上存在する取材先との支配的関係性の中で、性被害が起きている。改善されなかった要因として、日本のメディアは、記者のうち女性は2割だけという圧倒的な男性中心主義的組織であることから、女性記者が直面する問題が可視化されてこなかった。また、編集の意思決定は男性が多く占め、ニュースも男性目線に偏り、このホモソーシャルな体制が、多様性の欠けるニュースの価値判断の基準となる要因である。メディアのホモソーシャルな体制は性暴力、性被害の報道の表現や扱いについても影響している。性暴力事案の表現について、強制性交罪、強姦罪を「暴行」「乱暴」などという置き換えをしているメディアがあり、被害を矮小化し、被害者の貶めにも繋がりかねない。被害者は黙り、被害を表には出してはいけない、といった強姦神話による偏見差別を助長するようなことがないよう、メディアは今後、ジェンダー研究とともに、研鑽を重ねていかねばならない。

論文
  • ―大学が実施する上位職育成プログラム参加者へのインタビュー調査から
    樋熊 亜衣, 河野 禎之
    2024 年31 巻 p. 48-68
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

     大学等の研究機関に女性研究者、特に教授や管理職等の上位職の女性研究者が少ないことはわが国の社会課題の一つである。この課題に対し文部科学省は2006年から「女性研究者支援事業」を実施しているが、現状の数値等を踏まえると、効果が発揮されているとは言い難い状況にある。そこで本稿は「女性研究者支援事業」に採択された大学が実施する「上位職育成プログラム」に参加した13名の女性研究者へインタビューを行い、プログラムに参加したことによる変化や参加した動機をヒアリングした。これにより、①当該プログラムが女性研究者らのキャリアアップに対してポジティブな効果を発揮していたこと、②プログラムの効果と参加した動機の積極性は関連が薄く、プログラム参加への動機が消極的であってもポジティブな効果が期待できること、③必ずしも「キャリアアップ」が教授や管理職等への昇進とは考えられていないこと、の3点が明らかとなった。

     以上のことから本稿では次の三つ、(1)教授や管理職を含む研究者のそもそもの研究環境・労働環境の改善、(2)多様なキャリアパスを前提としたキャリアマップの作成、(3)研究者の「評価」方法の見直し、について提案した。

  • ―美容師の役割に着目して
    楊 雅韻
    2024 年31 巻 p. 69-87
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

     本稿は、1900年代から1930年代前後まで、洋風化粧法が日本で普及していくなかで、いかに化粧をめぐる価値観の転換がジェンダーと結びつきながら行われたかを分析した。具体的には、近代化の過程で特定の階層を問わず、多くの女性が化粧という文化領域に巻き込まれざるを得なくなった過程に注目した。

     そこで、言説分析の手法を採用し、近代化の過程に伴い出現した「美容師」なる職業の役割に焦点をあてた。「美容家」なる職業は、当初はそのほとんどが男性によって占められており、常に世の人から賤業視されてきた。そのため、女性「美容師」が自らの正当性を主張するため、「美容師=女性」の言説を積極的にメディア空間内に創り出していた。それらの「美容師」は、洋風化粧法を普及させる中で、新中間層の女性に、化粧をする正当性、必要性、化粧の道具である化粧品を購入する合理性と経済性を唱えた。このように、前近代においてジェンダーを問わず、社会的身分を可視化するために行った化粧が、近代化の過程で、化粧する主体と、化粧業界に従事する主体ともに女性というイメージに収斂していった。

  • ―「フェミニズム正義論」を手がかりとして
    岡田 玖美子
    2024 年31 巻 p. 88-105
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

     家族内における親密性と平等性は、不安定な位置関係にあることが論じられてきた。とくに夫婦関係では、「愛情」が関係の前提とされることで、ほかの関係よりも一層ジェンダー不平等がとらえがたいことが想定される。本稿は、夫婦の親密な関係がジェンダー平等であるとは、どのような状態を指し、どのようにして「平等」を考えればよいのかを明らかにすることを目的とする。

     まず、「親密財」という概念を参照して、親密な関係では平等や公平を一義的にとらえがたく、通常の「財」のように分配の問題に還元しきれないという難点を指摘した。この難点をふまえて親密な関係におけるジェンダー平等を考えるうえで、「ケア」をキータームとしたフェミニズムの議論に着目し、成人間の親密な関係を恋愛感情にもとづく関係ではなく、「人格的ケア関係」としてとらえる視点を示した。

     さらに、有賀美和子(2011)の『フェミニズム正義論』、およびミノウとシャンリー(Minow & Shanley, 1997)の関係的権利論に立脚し、人格的ケア関係から得られる親密財を権利として人びとに保障しつつも、その権利に伴うケアの責任の観点から不正義を可視化し、ジェンダー平等をめざす視座を提示した。

  • ―戦う軍事組織か、戦わない軍事組織か
    児玉谷 レミ
    2024 年31 巻 p. 106-123
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

     日本の社会学的な男性学・男性研究において、自衛隊を対象とした軍事的男性性の議論は十分展開されてこず、自衛隊のジェンダー研究においても特に戦闘の価値づけという観点から男性性の複数性における考察は深められてこなかった。本稿では自衛隊の軍事的男性性を論じようとしたときに、さらに二つの課題があると考える。第一に、軍事的男性性の枠組みが、戦闘に男性たちを駆り立てるべく、男らしさと戦いを結びつけるさまを解釈しようとしてきたものであったのに対し、自衛隊は憲法九条のもとで戦闘参加を厳しく制約されているという齟齬をどのように解釈するかということ。第二に、外部社会と自衛隊の「断絶」ゆえに、外部社会との関係をふまえた自衛隊の軍事的男性性の構築をとらえることが不可能に見えること。フェミニスト国際関係論やミリタリー・カルチャー研究、自衛隊研究を参照し、これらの課題を解決することを通じて、自衛隊の軍事的男性性が戦闘を称揚するものと戦闘回避をするものがせめぎ合っており、そこには外部社会の影響もあることを示す。さらに、安全保障政策や戦争記憶のありかた、日本の経済状況の変化などをふまえながら、ヘゲモニーの変動を議論する必要性を述べる。

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