2019 年 50 巻 p. 207-222
古代ガラスの化学組成は原料や製作地を反映することから,著者らは古代・中世のガラスビーズに着目して蛍光X線分析を用いて,これまで起源推定を行ってきた.中世の本州では,ガラスの流通が衰退していたが,同時期の北海道ではアイヌ文化期と呼ばれる独自の文化が興っており,ガラスの流通が盛んであった.我々はそのアイヌ文化期の北海道の遺跡出土ガラスビーズに着目して研究を行った.分析の結果,カリ鉛ガラス(K2O-PbO-SiO2)とカリ石灰ガラス(K2O-CaO-SiO2)の2タイプが流通していることが明らかとなった.アイヌ文化期の最初期のガラスを分析すると,アイヌ文化期になると流通したガラスタイプが大きく変化することも明らかとなった.さらに北海道全域のガラスを化学分析すると,カリ石灰ガラスは化学組成の面から中国で製作された可能性が高いことを示唆することができ,アイヌ文化期の北海道に流通したガラスビーズの概要を解明することができた.