YAKUGAKU ZASSHI
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誌上シンポジウム
MPSの行政的受け入れに向けて—心臓安全性評価を例に—
山崎 大樹
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2023 年 143 巻 1 号 p. 55-63

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Summary

Microphysiological system (MPS) are “Cell/tissue culture systems that reproduce in vivo organ functions in vitro by placing organ compartments that mimic the physiological environment of various organs such as the liver, small intestine, and lungs in micro-spaces.” The MPS are attracting attention around the world as tools to improve human predictability in drug discovery research. In the U.S., in 2012, the NIH (National Institutes of Health) allocated a large budget to academia for research development of MPS. In Japan, the National Institute of Advanced Industrial Science and Technology and the NIHS (National Institute of Health Sciences) have been playing a central role in commercialization, performance evaluation, and standardization of MPS devices developed by academia for the liver, small intestine, kidney, and BBB as target organs/tissues in the AMED–MPS project that started in 2017. Pharmaceutical companies are beginning to utilize MPS in drug discovery research. However, MPS have only just been raised as a topic of discussion between regulatory authorities and pharmaceutical companies, and it will be necessary to overcome many barriers before data obtained by MPS can be included in drug approval documents and be widely accepted administratively. In this review, I would like to introduce cardiac safety evaluation as a concrete example to show what paths MPS should take to gain regulatory approval. In addition, I would like also to introduce human 3D heart tissue, which was developed in NIHS, as a cardiac MPS.

1. はじめに

生体模倣システム(microphysiological system: MPS)に関して見解の統一された定義はまだ存在しないが,最小限の共通認識として“マイクロスケールの微小空間に肝臓や小腸,肺,心臓などの各種臓器の生理学的環境を模倣した臓器/組織コンパートメントを単独あるいは連結して配置し,生体における組織機能をin vitroで再現した細胞培養系”と言える.このMPSが,創薬研究の非臨床試験段階においてヒトに対する外挿性を向上させる手段として,あるいはアンメットニーズの評価系として世界中で注目を集めている.米国では,2012年からアメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health: NIH)の一部局であるNational Center for Advancing Translational Sciences(NCATS)が大型予算を配分して,MPSの開発研究が開始され,様々な臓器/組織特異的機能を発現させる技術が次々に開発された.1現在までに,欧米のベンチャー企業からは多種類のMPSデバイスが販売されており,それらを用いた評価系に関する報告も後を絶たない.2また,製薬会社においても実際の創薬研究にMPSが利活用され始めているのが現状である.2本邦においても2017年より開始された日本医療研究開発機構(AMED)の「再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発」事業(通称AMED–MPSプロジェクト,2021年度終了)にて,筆者は肝臓・小腸・腎臓・血液脳関門(blood brain barrier: BBB)を対象臓器/組織として薬物動態及び毒性評価に対してアカデミアで開発された4種類のMPSデバイスの製品化と性能評価・規格化を進め(一部,木村の稿を参照),MPSデバイス及びデバイスに搭載する細胞に関する技術要件の設定を行ってきた.3しかしながら,MPSは規制当局と製薬会社の間での議論の俎上に上ったばかりであり,MPSで取得したデータが医薬品の承認審査資料に収載され,行政的に広く受け入れられるためには数多くの障壁を乗り越える必要があると推測される.本稿では,最初にMPSの過去の動向と現状を紹介し,次にMPSが行政的に受け入れられるためにどのような道筋を進むのが妥当かを考えるための一例として,すでに国際的に標準化されたヒトiPS心筋細胞を用いたin vitro催不整脈リスク評価系を紹介する.また,国立医薬品食品衛生研究所薬理部で開発している医薬品による収縮障害を検出可能な心臓MPSについて紹介する.これは,心臓安全性領域において近年アンメットニーズとして課題となっているものであり,国際的にも盛んに評価系開発が行われている分野である.

2. MPSの過去の動向と現状

他の著者の記載と重なる部分があるが,簡単にMPSに関する国際動向について振り返りたい.2012年頃より米国国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency: DARPA),NCATS,米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration: FDA)の大型研究開発費による臓器チップ(organ-on-a-chip: OoC)プロジェクトが開始され,開発された様々な臓器チップは細胞機能を高く再現したin vitro細胞培養系であることが示された.2017年,米国ではFDA’s Predictive Toxicology Roadmap4にMPSが毒性予測に役立つ新技術として記載され,規制当局が初めてMPSについて言及したと話題となった.同年,欧州では欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)にて動物実験代替に係わるMPS Workshopが開催された.また日本では国産のMPSデバイスの開発及び産業利用,標準化に向けたAMED–MPS研究事業が開始するなど日米欧の三極にてMPSに関して大きな動きがあった.その後,NCATSによるUS Tissue Chip Program 2.0の開始,IQ consortium内に日本の大手製薬企業も参加するMPS Affiliateの設置,MPSに関するネットワーキングプラットフォームとしてのEU EUROoCS(European Organ-on-Chip Society)設立,t4(the transatlantic thin tank for toxicology)Workshop開催,GSRS(Global Summit on Regulatory Science)にてMPSに関するシンポジウム開催,MPS World Summit活動開始,規制文書である経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)生理学的薬物速度論(PBPK)テストガイドラインにMPSの将来的な利活用の議論が記載,そして2022年6月には第1回MPS world summit開催といった動きがあった.

医薬品開発におけるMPS利用では,ノボノルディスク,アストラゼネカ,ロシュ,ファイザーなどの海外大手製薬企業が血管,骨髄,小腸上皮,肺,肝臓,肝臓–甲状腺等の臓器を対象として薬効や安全性,薬物動態の領域でMPSをすでに利用していると報告されており,しかも社内の意思決定に利用されている可能性も示唆されている.2また,上述のように2017年にFDA’S PREDICTIVE TOXICOLOGY ROADMAPにMPSが毒性予測に役立つ新技術として記載され,規制当局が初めてMPSについて言及した.FDA内では,機関内横断的組織としてAlternative Methods Working Groupが活動中であり,毒性評価の代替法の1つとしてMPSの有用性の検証を行っている.FDAに所属する研究者自身がMPSを研究に活用しており,実務的・現実的な知見が蓄積されている.5このように海外では,大手製薬企業の中でMPSの利活用が進んでおり,つい先日治験薬許可申請(FDA’s investigational new drug application: INDA)にMPSデータが使われたとの報告もあった.6FDAでは積極的にMPSを非臨床試験データとしての有用性を見出す方向に進んでいる.5

AMED–MPS研究事業のメンバーはt4 workshopやGSRS, MPS World Summitに参加しており,研究事業の活動内容や成果について世界に広くアピールしてきた.また,OECDのPBPKテストガイドラインの作成には,AMED–MPS研究事業の関係者の貢献も大きい.しかしながらAMED–MPS研究事業の開始が海外に比べて遅れていることからもわかるように,現段階の日本のMPS産業及び規制対応は海外に後塵を拝していると言わざるを得ない.

AMED–MPS研究事業では,この遅れを取り戻すべくMPSの行政的受入に関連するステークホルダー間(アカデミア,サプライヤー企業,ユーザー・サービス企業,規制当局)のギャップを埋めることが重要であると考えた.そのために,各ステークホルダーにおいて,時間やリソース,研究に対して固有の考え方が存在し,これを相互理解することが効果的と考え,網羅性や絶対値を求めないミニマムコンセンサスが重要であると研究事業内に周知し各ステークホルダーの理解を深めた.これにより,研究事業期間内に4種類のデバイスを製品化直前の段階まで開発を進めることができた.同時に,MPSデバイスに求められる技術要件を定め,またMPSデバイスに搭載する細胞についても,ユーザーヒアリングからそれぞれ“肝臓らしさ”・“小腸らしさ”・“腎臓らしさ”・“BBBらしさ”(佐藤の稿を参照)を抽出し,そこから肝細胞及び小腸上皮細胞に求められる技術要件を設定し,各臓器細胞の基準となる細胞の検討を行った.このように,日本でのMPSの産業化とMPSを用いた評価系の開発・標準化は始まったばかりであるが,すでに具体的な評価事例を蓄積している欧米に追いつき追い越すための取組を進めている.

3. In vitro催不整脈リスク評価法の国際標準化の事例紹介

では新規評価法を開発し標準化するにはどのような手順で進めるのだろうか?新規in vitro評価法の開発及び国際標準化を目指した活動の一例として,筆者の取り組んだin vitro催不整脈リスク評価法開発について,国内外の活動を紹介させて頂く.

1975年から2007年の間に安全性上の理由により販売中止となった医薬品の原因臓器の約45%が心臓であり,そのほとんどが心電図のQT間隔延長やtorsade de pointes(TdP)であった.7TdPは主に心臓に発現するK+チャネルのhERGチャネル阻害によりQT間隔延長が起こることで誘発される.このような医薬品による催不整脈リスクを回避するためICHガイドラインS7B(2005年に海外で適用,2010年に日本で適用)では「ヒト用医薬品の心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性に関する非臨床的評価について」In vitro IKr測定としてhERGチャネル阻害作用の有無を調べる試験及びIn vivo QT測定として動物の心電図への影響を調べる試験を行うことを定めている.8S7Bガイドラインが適用されることにより課題も顕在化してきた.それは,hERGチャネル阻害作用を有するものがすべて催不整脈作用を有するものではなく優秀な候補化合物をドロップアウトさせてしまっている可能性があること,そして実験動物とヒトでは種差により医薬品候補化合物の反応性が異なる場合もあることの2点である.9この課題を解決するためには,筋活動電位に関係するK+やNa+,Ca2+等の複数のイオンチャネルを評価可能なヒト細胞での予測精度の高い評価法が必要であり,その方法として複数のイオンチャネル発現系,ヒト幹細胞技術及びin silicoによるシミュレーションの組合せが提案された.

海外では,S7Bガイドラインの適用が日本よりも早かったこともあり,2010年にはすでにガイドライン改訂に向けて水面下で動き出していた.2013年にはヒト幹細胞由来心筋細胞の利用に関するシンポジウム(HESI Cardiac Safety Committee and SPS)やCardiac Safety Research Consortium(CSRC)-HESI-FDA meetingにてICHS7B/E14ガイドラインの見直しが提案され,米国ではFDAも参画したComprehensive in vitro Proarrhythmia Assay(CiPA)と呼ばれる産官学コンソーシアムが組織され,複数のイオンチャネル発現系,ヒト幹細胞技術及びin silicoによるシミュレーションの組合せを提案した.9,10一方,日本では海外の動きに対応して,ヒト幹細胞技術のみに特化したiPS心毒性班を国立医薬品食品衛生研究所薬理部中心に立ち上げ,調査研究(2010–2012)や分化細胞や標本の種類,評価方法について検討を開始した(2012–2015).その後,国立医薬品食品衛生研究所薬理部が中心となって産官学コンソーシアムであるJapan iPS Cardiac Safety Assessment(JiCSA)を組織し,ヒトiPS心筋細胞を用いたin vitro催不整脈リスク評価系の開発及び国際標準化を目指した活動を行った.幸運なことに筆者はJiCSAの活動において事務局を担当し,評価系開発や施設間検証,多施設検証,国際標準化に向けた活動というものを直に経験することができた.JiCSAにおける進め方は以下の通りである.最初に,施設間差や検証試験を行う際に実験条件を同一にする必要があるため,分化心筋細胞,単一細胞や高密度細胞塊あるいはスフェロイド等の実験標本タイプ及び薬理試験の方法について決定し,標準プロトコルの整備を行った.次に,産官学3施設での標準プロトコルによる試験を実施し,施設間での再現性・頑健性を示し,11取得するデータの基準を設定した.12その結果を基に日本安全性薬理研究会に参加している企業を中心に参加研究機関を選定し,製薬企業4社へ標準プロトコルを技術移転して60化合物を用いた評価を実施した.これによりヒトiPS心筋細胞を用いた催不整脈リスク評価法の有用性を示すことができた.1318更に,CiPAと連携して日本からも2施設が参加した国際検証試験を行い,ヒトiPS心筋細胞を用いた催不整脈リスク評価系の有用性を示した.19

これまでの経験から,新規in vitro評価法の開発及び国際標準化を進めるためには評価系に関する論文を発表することで製薬企業やCROにて評価法の利用を促進すること,そして国内コンソーシアムを組織して海外コンソーシアムと連携・協調することが重要であると考える.

4. MPSの行政的受入に必要なこと

上述した催不整脈リスク評価法の事例では,JiCSAにおいて分化心筋細胞,実験標本タイプ及び薬理試験の方法を決定することが肝であったと考える.つまり品質の保証された細胞を用いて,ばらつきの少ない標本を作製でき,誰でも簡単にデータが取得できる試験法というコンセプトでプロトコルの整備を行った.MPSに立ち返ると,有効性,安全性や薬物動態等の様々な分野に利活用できる可能性があることから,細胞や実験標本,試験の方法の組合せは数えるときりがない.したがって,最もニーズ及び実現性の高い評価系1つあるいは2つに限定して評価系の開発・標準化を進めていくことも手段の1つである.

今後,筆者は実用性の高いMPS評価系(デバイスと細胞の組み合わせ)を開発し,論文として多数発表することで製薬企業での利用を促進する必要がある.これにより規制当局のMPSへの理解を促し,規制での利活用が進むことが期待される.また,米国にはMPS Affiliateという製薬会社コンソーシアムがあり,MPSの利活用に向けた議論をFDAとすでに開始していると聞いている.日本においても製薬協からスピンアウトしたヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム(Consortium for Safety Assessment using Human iPS Cells: CSAHi)内にMPSチームができ2021年より活動を開始した.これにより国内製薬企業でのMPS利活用が促進され,海外コンソーシアムとの対話や連携が進むことを期待する.また筆者がPMDA等と連携しながらFDA等の海外規制当局との議論を定期的に実施することで,MPSの国際標準化及び行政的受容へ向けて加速するものと思われる.

5. 心臓安全性評価におけるMPSの利用例

最後に,国立医薬品食品衛生研究所薬理部で開発している抗がん剤等の医薬品による収縮障害を検出可能な心臓MPSであるヒト三次元心筋組織を用いた収縮評価系について紹介する.これは,心臓安全性領域において近年アンメットニーズとして課題となっているものであり,国際的にも盛んに評価系開発が行われている分野である.

分子標的型抗がん剤の出現により抗がん剤の副作用として収縮障害等の心毒性を発症するケースが増えてきた.アントラサイクリン系抗がん剤のドキソルビシン(DOX)が,その総投与量に応じて心不全を発症することは有名な話である.20また,乳がんの治療に使用されるハーセプチン(トラスツズマブ)も心収縮障害を起こすことが多く報告されている.現在,抗がん剤による心毒性の検出は一般的にモルモット等の動物から心臓を摘出し,ランゲンドルフ灌流装置にて行われている.抗がん剤による心収縮障害は慢性投与により発現することが多いため,摘出心臓での検出は適さない.また,薬剤によっては心収縮障害発現に種差があり,動物実験におけるヒト外挿性は不明である.そこで,筆者はヒト予測性が高く慢性毒性の検出が可能な新規ヒト型in vitro評価法としてヒトiPS心筋細胞を用いて作製した三次元心筋組織である心臓MPSを開発している.筆者はスイスのDNAQOR社から販売されている製品を使って三次元心筋組織を作製している.2124具体的な作製方法は,製品ホームページ(https://eht-technologies.com/)がわかり易いが,アガロースゲルで型を作り,そこに2本の柱が下に出ているPDMS製ラックを入れ,ヒトiPS心筋細胞を含んだフィブリンゲルによって三次元心筋組織を作製する(Fig. 1).筆者は,独自に収縮測定及び半自動解析システムを構築済である(Fig. 2).

Fig. 1. Summary of EHT Making

1. Infuse melted 2% agarose into wells of a 24 well plate. Make grooves using s comb in the agarose gel. 2. Set pillars in the grooves. 3. Count HS-27a stromal cell and iCell cardiomyocytes. Mix cell suspension, fibrinogen and thrombin. Infuse mixture to the grooves. 4. Incubate for 60 min at 37°C. 5. After consolidation of mixture, transfer human 3D heart tissue to other well with medium. 6. Culture human 3D heart tissue for 3–4 weeks, and then record movie of human 3D heart tissue contraction.

Fig. 2. Summary of Contraction Measurement System

(A) The human 3D heart tissue contraction measurement system. (B) Measure between inside of two pillars in all pictures. Picture at relaxation period (upper panel) and contraction period (lower panel) are shown. (C) Plot tissue length over time.

筆者はまず作製したヒト三次元心筋組織がβアドレナリン受容体アゴニストであるイソプロテレノール(ISO)に対してヒト心筋と同様の反応を示すかを確認した.その結果,ヒト三次元心筋組織は1~1000 nM ISOに対して,濃度依存的に拍動数を上昇させ,心筋組織の収縮距離を増加させた(Fig. 3).つまり,陽性変時作用と陽性変力作用を確認することができた.次に濃度の異なるDOXに対する24時間ごとに72時間まで収縮の障害を評価した(Fig. 4).溶媒である0.1% DMSOでの拍動数や収縮距離の変化はほとんどなかったが,0.1–1 µM DOXにより時間依存的に拍動数の上昇が観察された.また,収縮距離について解析を行うと,0.1 µMでは24–72時間でほとんど変化がなかったが,0.3及び1 µM DOXでは時間依存的に収縮距離の減少,つまり収縮障害が観察された.72時間後には1 µM DOXで収縮が完全に停止しており,0.3 µMではわずかに収縮が残っていることを考慮するとDOX濃度依存的な収縮障害であると言える.DOXは心筋細胞内において様々な部位に作用することが知られており,トポイソメラーゼIIβやtransient receptor potential canonical type 3(TRPC3)の阻害が心毒性の原因であると言われている.25,26ただ,DOXは細胞毒性も有していることから今回観察された収縮障害が器質的な障害を受けたことによるものなのか,そうでないのかは電子顕微鏡による観察や免疫染色等で確認する必要がある.拍動数の増加については,DOXが小胞体膜上のリアノジン受容体に直接作用したことが原因であると考えられ,27収縮障害とは無関係と思われる.

Fig. 3. β-Adrenergic Receptor Responses in Human 3D Hear Tissues

(A) Responses of isoproterenol in human 3D heart tissues are shown. Contraction traces at 0, 10, 100, 1000 nM of isoproterenol. (B) Summary of dose-dependent beat per minute and (C) dose-dependent contraction change. Data are expressed as the mean±S.E.M. (n=6).

Fig. 4. Responses to Doxorubicin (DOX) in Human 3D Heart Tissues

(A) Recording timeline and DOX applications are shown. (B) Contraction traces with 0.1% DMSO (vehicle control) at 0, 24, 48, 72 h. (C) Summary of dose-dependent beat per minute changes and (D) dose-dependent contraction changes in 0.1% DMSO. (E) Contraction traces of 0.3 µM DOX at 0, 24, 48, 72 h. (F) Summary of dose-dependent beat per minute changes and (G) dose-dependent contraction changes at each DOX concentrations. 0.1 (circle), 0.3 (square) and 1 µM (triangle) are shown in each graph. Data are expressed as the mean±S.E.M. (n=4–6).

以上のように,筆者はヒト予測性が高く抗がん剤等の慢性毒性の検出が可能な新規ヒト型in vitro評価法として心臓MPSの開発を進めている.将来的にヒト三次元心筋組織により取得したデータを実験動物やヒトの心エコーデータ等に橋渡しすることでヒト予測性の検証を行う必要があるため,AMED創薬基盤推進研究事業(2022–2024年度)にてin vitro to in vivo extrapolation(IVIVE)とヒト細胞資源を活用してヒト予測性の高いin vitro評価系の構築を目指している.

6. おわりに

第1回MPS World Summitが2022年6月に米国ニューオリンズで開催され,MPSに関係する世界中のアカデミア研究者,サプライヤー企業,規制当局が参加し熱い議論を交わした.いよいよ,MPSの社会実装・国際標準化に向けて本気で世界が始動したと感じている.国内でもMPSの国際標準化に関するAMED研究事業が4月から開始され,また第二期のMPSを用いた評価系開発に関するAMED研究事業がまもなく開始されるところであり,これまでのデバイスの製品化に加えて評価系開発と標準化に向けて産官学を密接に連携・協力して進めていく必要がある.筆者もこれらに係わっており,今後の発展を見守っていただけると幸いである.

謝辞

本稿で紹介した研究内容はAMED「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」(課題番号:21be0304401)からの助成を受けて行ったものである.ヒト三次元心筋組織の収縮データは正木紀隆 博士,木村暁 教授(国立遺伝学研究所)との共同研究の成果である.また,貴重な助言をいただいた加藤英里子 氏,馬場敦 博士,澤田光平 教授(東京大学)にも深謝したい.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第142年会シンポジウムS34で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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