YAKUGAKU ZASSHI
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誌上シンポジウム
医・歯・薬 同時改訂コア・カリの今,医療系学部として薬学教育の進むべき道は!
政田 幹夫
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2023 年 143 巻 10 号 p. 841-845

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Summary

In recent years, the role of pharmacists has changed dramatically due to a combination of rapid developments in medicine, science and technology, along with a rapidly aging population and declining birthrate. Especially since the 1980s, these changes have been remarkable. Accordingly, in order to best prepare pharmacists, the duration of pharmacy education has been extended to six years. Further, the core curricula of all three medical faculties (medicine, dentistry, and pharmacy) will be revised concurrently, in a coordinated manner, in 2024. Pharmaceutical education should thus place more emphasis on clinical education to “know clinical practice, link what you have learned in clinical practice to drug discovery, and important to know the roles of each medical provider including patients and contribute to drug treatment and post-marketing drug development. We should be aware that pharmacy and medical care cannot be achieved through lectures alone.” In designing a new pharmaceutical curriculum to meet these coming needs, it is important to have a vision looking 10 or 20 years into the future. It is necessary to know the world in which we live, as well as the role that should be played by pharmacists, to set a clear educational philosophy that includes goals to be achieved, and then to develop a curriculum to reach these, and a plan for steadily putting these goals into practice.

はじめに

1980年代には,therapeutic drug monitoring(TDM)の普及や入院調剤技術基本料が新設されるなど,薬剤師の業務内容に大きな転換期が訪れた.1992年の第2次医療法改正において薬剤師が「医療の担い手」と明記されるに至り,社会の求める薬剤師像も変化している.1990年代には,在宅の薬剤管理指導業務や薬剤師法に調剤時の情報提供の義務規定が定められるなど,それまでの処方せんに基づき正確に調剤する技術者的な役割に加え,医療(特に薬物療法)の安心・安全を担う専門家としての役割が重視されるようになった.このような社会のニーズに応えることのできる人材を育成するためには,従来の4年制教育課程では十分対応できないということで,2006年に薬剤師養成は6年制教育課程に移行した訳である.しかし,4年制がすべて6年制になった訳ではなく,この点が医学部とは大きく異なっている.医療の担い手である薬剤師となるためには,すべからく6年制課程を修了しなければならず,モデル・コアカリキュラムは,臨床を強く意識した内容が示されている.一方で,4年制課程は同じ薬学部でありながら,薬剤師国家試験の受験資格はなく,教育理念も異なるという不思議な現象に陥っている.4年制と6年制が混在するうえに,教えている教員は多くが4年制の理念のまま6年制課程の教育を行っているのが現状である.また,急速な少子高齢化,科学技術の進歩による機械化や情報科学の活用が医療を高度に発展させ平均寿命を延長させると同時に,医師の負担増を招き,多職種連携・協働やタスクシフトなどこれまでにない医療の提供体制への対応が求められている.その影響もあってか,2006年の6年制課程の始まりからわずか7年後の2013年に改訂モデル・コアカリキュラムが示され,2015年度から適用されている.さらに,2023年には2回目の改訂モデル・コアカリキュラムが示され,2024年度の入学生から適用されるという状況を生じている.ここで言うところのモデル・コアカリキュラムは,6年制課程に対応する内容であり,4年制課程には適用されない.しかし,先に述べたように教える教員は4年制課程から入れ替わっておらず,新たな対応を迫られている.

学部教育の理念と目的

教育理念と目的は,各大学において策定されホームページ等で公開されている.例えば,京都大学の“理念と目的”はTable 1のように示されている.

Table 1. Philosophy and Purpose of Undergraduate Education at Kyoto University
学部理念・目的
理学部自然科学を支配する原理や法則を探求する学問(自然現象を理論的に解明しそれを証明する)
工学部人類の生活に直接・間接に関与する学術分野.学問の基礎や原理を重視し自然環境と調和のとれた科学技術の発展を図る(モノづくりに関する実践的知識・技術を学ぶ)
農学部世代を超えた生命の持続,安全で高品質な食料の確保,環境劣化の抑制と劣化した環境の修復等,人類が直面している困難な課題の解決
医学部医療の第一線で活躍する優秀な臨床医,医療専門職とともに,次世代の医学を担う医学研究者・教育者の養成
薬学部薬科学科(4年制)薬学の学修を通じて,創薬科学の発展を担い得る人材を育成,人類の健康と社会の発展に貢献
薬学部薬学科(6年制)薬学の学修を通じて,先端医療,医療薬学・臨床薬学の発展を担い得る人材を育成,人類の健康と社会の発展に貢献

医学部においては臨床を修得し,かつ基礎研究・教育を担うことが明記されており,医学の基礎と臨床の融合を掲げている.一方,薬科学科においては創薬化学に特化しており,特に臨床との係わりを必要としていないことから,他の理系学部に近い教育理念と目的のようである.これに対し薬学科では医学部と同様に“医療”,“臨床”を意識した内容となっている.ただ,薬科学科と薬学科があるためか,基礎と臨床が分離している印象がある.薬学部においても医学部同様,臨床で活躍する医療従事者の下で十分な学修経験を積み,医療・臨床現場に貢献し得る創薬・医療現場における育薬という学問体系を築きあげるべきと考える.したがって,薬学部薬学科の理念と目標も医学部同様「医療の第一線で活躍する優秀な薬剤師・医療専門職とともに次世代の薬学を担う薬学研究者・教育者の養成」がよいと筆者は考える.

薬学の進むべき道

筆者は大学学部卒業後,約21年間を薬学部の教員として,また約27年間を医学部・附属病院薬剤部に在籍しており,その経験から先述の薬学部の理念・目的の考えに至った.古来,薬学は“人の命に係わる薬を扱う専門分野”であり,その基礎である“薬に対する高度な知識と技術(創薬)”と臨床である“高い生命倫理観に基づく薬物療法(育薬)”の双方が必要とされている.この“高い生命倫理観”は決して座学のみで学び得るものではなく,臨床現場での経験を通して修得されるものであり,このことが6年制課程の設置につながっているものと考える.実際,医学部教育に携わっていたときに,医学部の学生の5・6年生で行われる臨床研修において全診療科を経験し,「治療困難な患者・治らない病気・亡くなってしまう患者を目の前にして,“何とか患者さんを救いたい”という一心から勉学に励み臨床に・研究に邁進する覚悟が生まれた」との話や顔つきまで変わってくる様子を見てきた.また,ノーベル賞博士の山中伸弥先生も「治すすべのない患者さんを何とかして治したい」との思いで研究に励んでいたとご自身の講演で述べられている.医学部生に限らず,医療系学部の学生にとって臨床現場での学びがいかに大切であるか,筆者の前の講演者である藤尾慈先生(大阪大学薬学部長)も話されていたウィリアム・オスラーの“Fifteen minutes at the bedside is better than three hours at the desk”で端的に理解できるのではないだろうか.余談ではあるが,松下幸之助氏の「塩の辛さ,砂糖の甘さは学問では理解できない.だが,なめてみればすぐ分かる」という言葉は,実体験・実地訓練の有用性を物語っており,特に薬学のような実臨床に活かす学問においては,座学だけでなく経験を大事にしなければならない.またウィリアム・オスラーは“The practice of medicine is an art, based on science”とも述べており,基礎と臨床は切っても切れない関係にあることを明確に表現している.つまり,薬学の進むべき道は「臨床を知り,臨床において学修したことを基礎・創薬に結びつけ,臨床の場においては患者を始めとした医療に係わる人々のそれぞれの役割を知り薬物治療・育薬に貢献することであり,座学のみでは薬学・医療は成り立たないことを自覚するべきである」と考える.病院薬剤師・薬局薬剤師はもとより,医薬品研究・開発者,医薬品情報提供者,医療・薬事行政者,薬学教育者等々は臨床の場で十分な教育を受け,臨床の場を理解したうえで活躍するべきである.イーライリリー創業者の“ミラクルに挑戦”は正にそういった観点から出発しており,薬学教育では,それを実践できる人材を育成したいものである.

モデル・コアカリキュラム医歯薬同時改訂

今回のコア・カリキュラムの改定は,医歯薬三学部同時に進められ,“薬剤師として求められる基本的な資質・能力”に示された内容は,三学部間で共通する点が多い(Table 2).

Table 2. Basic Qualities and Abilities Required of Pharmacists
薬剤師は,豊かな人間性と医療人としての高い倫理観を備え,薬の専門家として医療安全を認識し,責任を持って患者,生活者の命と健康な生活を守り,医療と薬学の発展に寄与して社会に貢献できるよう,以下の資質・能力について,生涯にわたって研鑽していくことが求められる.
1. プロフェッショナリズム
豊かな人間性と生命の尊厳に関する深い認識を持ち,薬剤師としての人の健康の維持・増進に貢献する使命感と責任感,患者・生活者の権利を尊重して利益を守る倫理観を持ち,医薬品等による健康被害(薬害,医療事故,重篤な副作用等)を発生させることがないよう最善の努力を重ね,利他的な態度で生活と命を最優先する医療・福祉・公衆衛生を実現する.
2. 総合的に患者・生活者をみる姿勢
患者・生活者の身体的,心理的,社会的背景などを把握し,全人的,総合的に捉えて,質の高い医療・福祉・公衆衛生を実現する.
3. 生涯にわたって共に学ぶ姿勢
医療・福祉・公衆衛生を担う薬剤師として,自己及び他者と共に研鑽し教えあいながら,自ら到達すべき目標を定め,生涯にわたって学び続ける.
4. 科学的探究
薬学的視点から,医療・福祉・公衆衛生における課題を的確に見い出し,その解決に向けた科学的思考を身につけながら,学術・研究活動を適切に計画・実践し薬学の発展に貢献する.
5. 専門知識に基づいた問題解決能力
医薬品や他の化学物質の生命や環境への係わりを専門的な観点で把握し,適切な科学的判断ができるよう,薬学的知識と技能を修得し,これらを多様かつ高度な医療・福祉・公衆衛生に向けて活用する.
6. 情報・科学技術を活かす能力
社会における高度先端技術に関心を持ち,薬剤師としての専門性を活かし,情報・科学技術に関する倫理・法律・制度・規範を遵守して疫学,人工知能やビッグデータ等に係わる技術を積極的に利活用する.
7. 薬物治療の実践的能力
薬物治療を主体的に計画・実施・評価し,的確な医薬品の供給,状況に応じた調剤,服薬指導,患者中心の処方提案等の薬学的管理を実践する.
8. コミュニケーション能力
患者・生活者,医療者と共感的で良好なコミュニケーションをとり,的確で円滑な情報の共有,交換をとおしてその意思決定を支援する.
9. 多職種連携能力
多職種連携を構成するすべての人々の役割を理解し,お互いに対等な関係性を築きながら,患者・生活者中心の質の高い医療・福祉・公衆衛生を実践する.
10. 社会における医療の役割の理解
地域社会から国際社会にわたる広い視野に立ち,未病・予防,治療,予後管理・看取りまで質の高い医療・福祉・公衆衛生を担う.

薬剤師を目指す学生には,卒業後も継続的に「薬剤師として求められる基本的な資質・能力」を身につける努力を続け,常に高い資質・能力を目指して生涯にわたってよりよい医療人となるために研鑽を積むことが求められている.言い換えれば,薬学部としては学生が上記の能力を修得できるような教育・学修環境を提供しなければならない.繰り返しになるが,6年制課程の薬学教育は座学のみでは困難であり,指導者のもとで行われる臨床教育が必須である.残念ながら,医学・薬学・看護学を備え,附属病院を所有している大学は,国立大学では14校すべてが満たしているものの,公立大学5校は2校のみ,私立大学60校においては医学部・病院を有している大学は12校に留まる.臨床能力を備えた薬学教育に効果を発揮するinter professional education(IPE)の実践の場を確保するためには,なんらかの対応が急務である.また,“医療人として求められる基本的な資質・能力”の臨床教育を担える教授者の育成も並行して行っていかなくてはならない.これらが整えられなければ優れた理念を掲げたとしても“絵に描いた餅”になりかねない.すべての薬学部教員がこのことを認識して対応する必要がある.

臨床実習

今から約30年以上前に筆者が赴任した福井医科大学(現福井大学医学部)附属病院の話になり恐縮だが,当時の病院長(内科系教授・臨床薬理学会の重鎮)に薬剤師が病棟に赴くことについて相談したところ,「患者さんに話(服薬指導)をする前に,医師と薬物療法につてディスカッションしてもらいたい.医師カンファレンスに出席し,臨床の場に来て薬物療法について医師と議論・研究してください」と申し渡された.これぞ薬学6年制教育課程の原点であると思っている.それ以来,福井大学においては医師と薬剤師のディスカッションは行われている.また,外来患者においても全国の大学に先駆け2011年より院外処方せんに臨床検査値を記載し薬局薬剤師にも患者情報を共有し,臨床に寄り添うことを試みた.しかし,現在に至ってもいまだに情報共有が進んでいない状況であり,薬局実習⇒病院実習と一貫性のある実務実習を謳ってはいるものの,医療の連携,連続性のある教育を考えると解決すべき課題の一つである.また,今後の電子カルテの開示に対応できる薬剤師の育成を現状の薬学教育を成し遂げられるのかと考えると,一層の努力が必要であろう.

先の医師カンファレンスへの参加に関連して「医者と議論をした際,意見が異なったときはどうするのか?」との質問を受けた.薬物療法に関して医師同士であっても,薬剤師同士であっても,医師・薬剤師間であっても意見が異なることは多々あることであり,そこから議論を深め,最終的に患者さんにとって最善の薬物療法を見い出していくことが求められる.薬学教育では,その議論のできる薬剤師を育成し世に送り出すことこそが第一歩である.今後目指す薬学教育は創薬であれ育薬であれ,医療臨床現場で他の医療人に対しても,患者さんに対しても役立つ人間を育てることである.

薬学部生の実務実習(医療現場での実習を現在は実務実習と呼んでいるが,職業訓練ではなく臨床を学んで欲しいので臨床実習と呼ぶ方が適切だと考えるのだが,実務実習が正式な名称のようである)は,薬剤師を育成するうえで極めて大事であり,十分な環境が整えられた施設で行うべきと考える.例えば,医学部の臨床研修のように臨床教育を行い得る自学の大学病院若しくは臨床研修指定病院で行うべきである.医学における臨床研修病院の指定には基準が定められており,一般病床約300床以上,又は年間の入院患者実数3000名以上,内科・精神科・小児科・外科・整形外科・皮膚科・泌尿器科・産婦人科・眼科・耳鼻咽喉科,及び放射線科の設置,診療科毎に十分な指導力を有する指導医を配置していること等がある.さらに,設備基準に「研究,研修に必要な図書,雑誌の整備が行われていること」とし,その内容は,内外の専門図書及び雑誌を有し,かつ,年間少なくとも200万円以上の図書を購入していることや,合同カンファレンス等が組織的に行われていることが記されている.また,研修施設群として専門病院・中小病院・診療所・老人保健施設・保健所及び社会福祉施設との病院群の設置も推奨されている.こういったことを踏まえ,「6年制課程における薬学部教育の質保証に関するとりまとめ」において,「薬学実務実習に関して薬学教育モデル・コアカリキュラムの見直しの検討とともに,臨床に係わる実践的な能力を培うための実習の内容及び質の充実に向けて検討すべきである」と述べられているが,このことは長期にわたるビジョンを持った対応が必要であろう.本来は2006年の6年制課程開始以前にしっかりとしたビジョンを立てておかなければならなかったことである.実務実習を終えた学生が,病院・薬局を問わず「薬剤師にはなりたくない」と語ることが少なくないと聞いているが,臨床実習は職業訓練ではなく真に臨床の場を学修する実習であることを認識し,薬学部学生の臨床実習の現場を整備することで,そのようなことはなくせるであろう.

総合力

薬学を学ぶには,

  • (1) メカニズムに基づく理解:「基礎」である科学的薬学,メカニズムを解明し薬物治療法を開発する.
  • (2) 個々の患者・病気の理解:「臨床」である個の薬学,患者・医療者の価値観と経験を考慮して実践する.
  • (3) 統計に基づく理解:「統合」である統計的薬学,複雑な現実を集団の統計解析により理解する.

が必要と考える.これは陽明学者安岡正篤氏の「三識」,すなわち「知識」「見識」「胆識」の三段階で学びを深めていく考えに通じるものである.まずは「基礎」となる「知識」を座学により修得し,「臨床」の場で得た自分自身の体験・経験から,「見識」を高め,それらの「統合」として総合的な判断力・実行力を持つ「胆識」が必要である.特に今後の薬学には基礎的知識のみでなく,臨床現場を学び,統合力を身につけ,ますます発展する情報社会を馳駆することが大事である.小関智弘の著書「仕事が人をつくる」(岩波書店)に「人は働きながら,その人となっていく.人格を形成すると言っては大げさだけれど,その人がどんな仕事をして,働いてきたかと,その人がどんな人であるかを切り離して考えることは出来ない」とあるが,「仕事・働く」に「学び」をあてはめてみると「臨床の場で学ぶ」こと,臨床を知らずして「創薬・育薬」を成し得ることはできないと理解できるであろう.

まとめ

今も大事であるが10年,20年先を見据えたビジョンを持つことは更に大事なことである.松下幸之助氏の言葉に「明確なビジョンを持ち,そのビジョンに向かって次々と戦略・戦術を立てなければ真の発展繫栄はない.ビジョンは時代を超え,国を超え,人々を共感・共鳴に導くものでなくてはならない」とあるが,その通りである.大学教育においても同様で,世の中を知り,果たすべき役割を知り,明確な教育理念と達成すべき目標を定め,到達するためのカリキュラムを練り上げ,それを着実に実践することが求められる.

謝辞

本講演の助言及びご協力賜りました,大阪医科薬科大学薬学部の中村敏明教授に厚く御礼申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会・日本学術会議共同主催シンポジウム「21世紀の新しい人材育成に向け薬学教育はどこへ向かうのか?」で発表した内容を中心に記述したものである.

 
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