2023 年 143 巻 4 号 p. 345-348
Since oral bioavailability of peptides is extremely low, self-injectable and intranasal formulations have been developed; however, these treatments have problems such as storage and discomfort. The sublingual route is considered suitable for peptide absorption because there is less peptidase and it is not subject to hepatic first-pass effects. In this study, we attempted to develop a new jelly formulation for sublingual delivery of peptides. Gelatins with molecular weights of 20000 and 100000 were used as the jelly base. The gelatin was dissolved in water with a small amount of glycerin and air-dried for at least 1 d to form a thin jelly formulation. A mixed base of locust bean gum and carrageenan was used as the outer layer of the two-layer jelly. Jelly formulations with various compositions were prepared, and we evaluated the dissolution time of the jelly formulations and urinary excretion. It was found that the dissolution time of the jelly became slower as the amount of gelatin and the molecular weight increased. Using cefazolin as a model drug, urinary excretion after sublingual administration was measured, and it was found that urinary excretion tended to increase when using a two-layer jelly covered with a mixed base of locust bean gum and carrageenan compared to oral administration of an aqueous solution. Our findings suggest that sublingual drug absorption could be improved by allowing the drug eluted from the jelly formulation to remain in sublingual region for a longer time.
ペプチド医薬品は,高分子量,親水性の高さによる低膜透過性,消化管内での易分解性から経口吸収率が極めて悪く,ほとんどは皮下注射や点鼻など経口以外の方法で投与されている.自己注射型製剤は針刺による痛みが比較的軽減されており,なにより投与後100%近いバイオアベイラビリティが得られる.しかしながら,人前では投与しづらいうえ,冷蔵保存が必要など管理に注意を要する.さらに繰り返し投与による硬結のリスクも抱えている.一方,経鼻製剤によりペプチドの非侵襲的な投与が可能となり,その保存方法も比較的簡便である.また分子量1000程度の薬物でも約10%のバイオアベイラビリティが得られる.1)このように経鼻製剤は多くのメリットを有しているものの,少なからず不快感を伴うのと,毎回一定量服薬するのが難しく,特に小児では好まれ難い剤形と考えられる.
夜尿症治療薬であるデスモプレシンは,経口剤(ミニリンメルト® OD錠)として臨床適用されている数少ないペプチド医薬品の一つである.本剤のブタ試験において,食道閉塞下で舌下投与を行った際に非閉塞時及び経口投与時に比べデスモプレシン血漿中濃度が高く,投与量で補正した血中濃度時間曲線下面積(area under the plasma concentration–time curve: AUC)も高いことから(Table 1),経口投与したデスモプレシンの一部が口腔粘膜から吸収されることが示唆されている.2)一方で,本剤からの吸収率は約0.25%と極めて低い.ペプチドは作用が強力であり,pg/mLレベルの血漿中濃度で薬効を示すため,低い吸収率でも治療に必要な血中曝露が得られるが,その反面1%に満たないわずかな吸収率の差によって血中曝露に大きな個体間差が生じ,治療効果に影響してしまうという面がある.治療効果の個体間差を低減するには,吸収率の向上が必要と考えられる.
| AUC/dose (pg·h/mL) | |
|---|---|
| Esophageal obstruction (Minirinmelt OD tablet by sublingual administration) | 1.49 |
| Non-Esophageal obstruction (Minirinmelt OD tablet by sublingual administration) | 0.67 |
| Non-Esophageal obstruction (Normal tablet) | 0.20 |
Reference: Ferring Pharmaceuticals Co., Ltd. “MINIRINMELT® OD Tablet Interview form.”: 〈https://find.ferring.co.jp/res/front/upload_files/basic_product/minirinmelt_60-120-240_if.pdf 〉, cited 3 August, 2022.
このような背景から,筆者らはペプチドの経粘膜デリバリーを目的とした研究のなかで舌下投与による吸収改善に着目した.舌下は薄い重層扁平上皮でおおわれており,その厚みは100–200 µmとバッカル領域に比べて1/4–1/5薄く(Fig. 1),吸収は他の口腔部位に比べて比較的速やかである.3,4)上皮細胞の下層には左右対称に太い舌静脈があり,舌下投与された薬物は上皮細胞から舌静脈に吸収され,直接全身循環に移行するため,初回通過効果を受けない.さらに口腔内に分泌されている唾液中にはペプチド分解酵素がほとんどない.5)このように,舌下はペプチドの吸収部位として多くの利点を有しているが,口腔内には常に唾液が分泌され,ヒトは無意識のうちに一定の間隔で飲み込んでいるため,薬物の滞留性に乏しいという欠点がある.そのため,膜透過性の低い薬物は吸収される前に食道側へ飲み込んでしまう可能性が高く,実際,市販されている舌下投与製剤は,舌下免疫療法として使用されている医薬品とデスモプレシンを除くと3剤のみであり,いずれも膜透過性が良好な薬物である.

薬物の吸収量は薬物濃度(C),膜透過性(Papp),吸収に係わる時間(t)と有効表面積(S)を用いてEq.(1)に表される.
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舌下吸収において吸収促進剤等を利用した膜透過性の向上以外の吸収改善策としては,舌下での滞留時間の延長,舌下での薬物濃度の向上,吸収に係わる表面積の拡大,が考えられる.筆者らは特に舌下での滞留性向上に重点を置き,小児でも簡便に服薬でき,かつ治療に必要十分な量を安定して吸収できる製剤として舌下投与型ゼリー剤の開発を試みることとした.本稿では,その内容について紹介させて頂く.
経口ゼリー剤は薬物の安定性などを考慮し,カンテンやペクチン,カラギーナン等種々のゼリー基材を組み合わせて製剤化されていることが多い.本研究では服薬簡便性の面から,体温で溶解するゼラチンを基剤とした薄さ1 mm程度のゼリー剤を考案した.材料は平均分子量2万及び10万,等電点5のゼラチンと,適量のグリセリン,水である.あらかじめグリセリンを水に添加しておき,ここに秤量したゼラチンを添加し30分間膨潤させる.その後完全に溶解させ,薬物を添加,溶解させた後,容器に充填し1日以上風乾させることで薄いゼリー剤とした.
2-2. ヒト臨床試験人を対象とした臨床試験は,摂南大学の人を対象とする研究倫理審査委員会にてあらかじめ承認を受け実施している(承認番号2020-051).
(1) 口腔内薬物濃度推移
薬物の吸収速度は吸収部位での薬物濃度に依存することから,舌下粘膜表面での薬物濃度推移を評価した.モデル化合物として食品添加物のサンセットイエローFCF(Sunset Yellow FCF: SY)[一日摂取許容量(acceptable daily intake: ADI);4 mg/kg/d]を用いた.SYの投与量が3.5 mgとなるようゼリー剤(直径1.2 cmの円形)と水溶液(0.5 mL)を調製し,それぞれ舌下投与した後,小さなスポンジを用いて経時的に粘膜表面の溶液を採取した.水溶液は舌下に投与しそのまま1分間保持し,その後飲み込んだ.ゼリー剤は舌下の血管が見える部位に貼付し,時間毎にゼリー剤を剥がして溶液を採取した.
(2) 経口吸収率の概算
腎排泄型薬物は,投与後に全身循環に移行した薬物がほぼ100%未変化体として尿中排泄される.そこで,モデル薬物として腎排泄型で低膜透過性薬物であるセファゾリン(cefazolin: CEZ)を用い,製剤投与後の尿中排泄量を測定することで経口吸収率を概算した.水溶液の経口投与をコントロール群としたクロスオーバー試験とし,製剤投与後4時間までの尿量と尿中CEZ濃度を測定した.CEZ投与量は25 mgとし,水溶液投与群ではCEZ水溶液(50 mg/mL)0.5 mLを服用後速やかに水130 mLを飲んだ.なお,製剤服用前後30分間は飲食禁止とし,唾液の分泌量をそろえるため,ゼリー剤服用後30分間は会話しないこととした.
面積あたりのゼラチン含有量,分子量の異なる2種のゼラチンの混合比率,グリセリン添加量を変化させたゼリー剤を種々調製し,ゼリー剤の溶解時間を評価したところ,Fig. 2に示すように,面積当たりのゼラチン含有量が多く,分子量10万の比率が高いほどゼリー剤の溶解速度が遅くなることが明らかとなった.グリセリンは溶解速度に影響せず,その添加量に応じた柔軟性を付与できることがわかった.以上の検討から,舌下での適用性に優れ,舌下適用時に約20分で溶解する本研究の基本組成をTable 2の通りとした.

| Amount of gelatin | 46.9 mg/cm2 |
| Ratio of gelatin | 20000 : 100000=4 : 1 |
| Amount of glycerin | 0.4 µL/mg gelatin |
SYを含有した水溶液及びゼリー剤(組成Table 2の通り)を舌下投与したところ,水溶液は服用1分後の時点で既に濃度が低下し,飲み込んだ1分以降はほとんど検出されなかった.一方,ゼリー剤服用後はゼリー剤の溶解とともにSY濃度が高まり,20分後まで高濃度に維持された.算出したAUC(口腔内薬物濃度時間曲線下面積)はゼリー剤投与群の方が約8倍高い結果となり,ゼリー剤とすることで舌下粘膜表面の濃度が高まる可能性が示された.
3-3. 経口吸収率の概算舌下投与により吸収改善が見込まれるかを評価するため,水溶液の経口投与と舌下投与の比較実験を実施した.舌下投与では溶液を舌下に1分間保持した後,飲み込むこととし,経口投与と同様に水を130 mL飲んだ.結果としては,経口投与と舌下投与でほとんど差はなく,舌下から有意な吸収を得るには1分間の保持では不十分であり,製剤工夫によって舌下に長時間滞留させる必要性があると考えられた.
そこで,ゼラチンの分子量の混合比率を変えた2種類のゼリー剤(20000 : 100000=1 : 4, 4 : 1)を調製し,それぞれ水溶液の経口投与と比較した.その結果,いずれのゼリー剤でも製剤の滞留時間は延長したものの,水溶液よりも低い尿中排泄量となった.体温によってゼリーが溶解し溶液となった後に飲み込んでしまっている可能性が高く,ゼリー溶解後の飲み込みを抑制する工夫が必要と考えられた.続いて,食道側への排出を抑えるため,2種の二層ゼリー剤を考案した.1つ目は,CEZを含有したゼラチンゼリー(20000 : 100000=4 : 1)を,CEZを含まないゼラチンゼリー(20000 : 100000=1 : 4)で覆ったもの[Fig. 3(a)],2つ目は,CEZを含有したゼラチンゼリーを,CEZを含まないクールアガー®ゼリーで覆ったもの[Fig. 3(b)]である.クールアガー®はローカストビーンガムとカラギーナンを含む(11 : 9)ゲル化剤で,ゼラチン同様食用として利用されているもので,体温では溶解しない特徴がある.これらを水溶液と比較した結果,ゼラチンでの二層ゼリーでは依然として尿中排泄量が低かったが,クールアガー®ゼリーで覆った二層ゼリーでは水溶液の経口投与とほぼ等しく,内層部のゼラチン含有量を少なくしたゼリー[Fig. 3(c)]は上昇傾向が認められた.溶解したCEZを食道側へ排出させずに,より長時間舌下に滞留させ得る製剤とすることが重要であり,ゼラチンでは体温で溶解するため効果が低かったが,溶解しないクールアガー®ゼリーで覆い,内層部を速やかに溶解させることで薬物の滞留時間が向上し,最も効果が高まったと考えられた.

ペプチド医薬品は消化管内で分解され,かつ膜透過性が低いことから,舌下投与により分解の回避が可能であり,舌下からの吸収が全体的な吸収率向上に大きく貢献すると考えられる.一方で,CEZは消化管内で分解されず,尿中排泄量から見積もった経口投与後の吸収率は約7%と,一般的なペプチド医薬品と比較して高いため,舌下投与による吸収改善はペプチド医薬品よりも難しく,舌下からの吸収の寄与が検出され難いと推察された.本研究では舌下ゼリー剤による有意差は得られなかったものの,上記のような実験条件下で尿中排泄量が高くなる傾向が認められたのは,ペプチドの舌下吸収において有用な知見と考えられた.舌下吸収に関しては,まだあまり十分に研究されていない分野で,吸収を予測できる有用なin vitro試験法や動物試験モデルがない.また,食道側へ流れた薬物の一部は消化管から吸収されるため,得られるデータは舌下吸収と消化管吸収が合わさった複合的なデータであり,舌下からの吸収のみを分離評価できないのも課題である.今後はこれら研究方法の開拓を含めた舌下吸収全般における課題解決に取り組むとともに,製剤をブラッシュアップさせ,臨床応用の実現を目指したい.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,日本薬学会第142年会シンポジウムS10で発表した内容を中心に記述したものである.