2024 年 144 巻 1 号 p. 19
生物が生命現象に伴って生産する天然有機化合物(天然物)を単離してその構造を決定する,いわゆる“モノトリ (MONOTORI)”は,天然物化学の根幹をなす研究手法として認識されている.モノトリ研究により得られた生物活性を有する天然物(活性天然物)は,医薬品やバイオプローブのシーズなどとして重要であり,時として新規な天然物の発見が新たな研究領域の創成につながる.
このような背景の下,日本薬学会第143年会において「モノトリサイエンス アップトゥデイト」と題したシンポジウムを企画した.本シンポジウムでは,多様な天然物研究の根底となるモノトリに着目し,新規天然物探索において最前線で活躍されている4名の先生方,中村誠宏博士(京都薬科大学),沖野龍文博士(北海道大学大学院地球環境科学研究院),吉村 彩博士(北海道大学大学院薬学研究院),石橋正己博士(国際医療福祉大学福岡薬学部)にシンポジストとしてご登壇頂き,それぞれの専門領域からの新たな天然物を発見する意義とその醍醐味について講演頂いた.会場・Webでの参加者を合わせると300人を超えていたと記憶しているが,多くの質問・コメントを頂くなど,モノトリ研究の重要性について活発な議論が交わされるなど,盛会裏に終わった.加えて,久方ぶりの対面での年会開催であったためか,シンポジウム時間終了後も会場外のあちこちで熱のこもったディスカッションが続けられるなど,多くの天然物科学者にとって刺激的な内容であったと確信している.第143年会の開催当時は,いまだに多くの学会での学術集会がオンライン形式での開催を余儀するなかにあって,対面を含むハイブリッド形式での開催の英断を頂いた日本薬学会の関係者並びに,第143年会組織委員会の関係者の方々に心より感謝申し上げる次第である.
このたび,上述のシンポジウムでの発表内容について,誌上シンポジウムとしての寄稿の機会を頂いた.本誌上シンポジウムでは,中村誠宏博士から「薬用植物から得られる化学的に不安定な成分を使用した機能性化合物の開発研究」,沖野龍文博士から「藍藻の天然物アップトゥデイト」,石橋正己博士から「天然物に学ぶ:Nocardia属放線菌成分」についてご執筆頂いた.いずれも顕著な研究成果を収められているモノトリ研究の第一人者であることから,本誌上シンポジウムが読者の皆様にとって,最新のモノトリサイエンスについての理解や議論を深め,新たな研究のアイデアを創出する一助となれば幸甚である.
日本薬学会第143年会シンポジウムS33序文