YAKUGAKU ZASSHI
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誌上シンポジウム
機能性を持つ食品由来成分の探索と農産物の付加価値向上
井上 順
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2025 年 145 巻 1 号 p. 23-28

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Summary

Food-derived components with physiological effects have been attracting attention in recent years, and studies have comprehensively analyzed these components. In this study, we sought to identify food components with functional properties for the prevention and improvement of metabolic syndrome. We performed a luciferase reporter assay using fatty acid synthase (FAS) and low-density lipoprotein receptor (LDL) receptor gene promoters. Naturally occurring isothiocyanate sulforaphane impaired FAS promoter activity and reduced sterol regulatory element-binding protein (SREBP) target gene expression in human hepatoma Huh-7 cells. Sulforaphane reduced SREBP proteins by promoting the degradation of the SREBP precursor. Furthermore, we screened LDL receptor promoter effectors and observed that extract from sweet cherry peduncles induces LDL receptor gene promoter activity. Several analytical and chemical methods revealed that chrysin 7O-β-D-glucopyranoside in cherry peduncle extract stimulated LDL receptor gene promoter activity. Thus, this comprehensive search for components that alter the expression of genes associated with lipid metabolism led to the discovery of new functions of food components.

1. はじめに

近年,多くの食品由来成分の代謝改善作用が明らかになり,その作用機構が精力的に解析されている.一般の消費者においても,特定保健用食品や機能性表示食品を通じて食品成分の機能性が広く認知されており,食の力による健康増進が期待されている.筆者は,食品によるメタボリックシンドロームの予防・改善を目指し,機能性を持つ食品成分の探索を行ってきた.本稿では脂質代謝関連遺伝子の発現を制御する食品成分の探索とその作用機構を中心に,筆者が行ってきた食品の機能性研究について紹介する.

2. 評価系の構築

筆者はこれまでに,精製食品成分を約300種類入手し,脂質代謝関連遺伝子の発現を制御する新規な食品成分の探索を試みてきた.多くの成分について簡便に解析を行うため,ルシフェラーゼによるレポーターアッセイ系を構築した.今回は,fatty acid synthase(FAS)遺伝子とlow-density lipoprotein receptor(LDL)受容体遺伝子プロモーターを用いた例について紹介する.それぞれの遺伝子のプロモーター領域およそ1000 bpをルシフェラーゼ遺伝子の上流に挿入したレポータープラスミドを作製した.これらのプラスミドを安定に発現する細胞株Huh-7/FAS-Luc及びHuh-7/LDLR-Lucを樹立した.Huh-7/FAS-Luc細胞株をステロール枯渇培地で16時間培養した後に[sterol regulatory element-binding protein(SREBP)を活性化させ,プロモーター活性を亢進させるため]各化合物を100 µMで24時間処理し,ルシフェラーゼアッセイにより活性を測定した.Huh-7/LDLR-Luc細胞株については食品の廃棄部位の抽出物を用いて検討を行った.

3. SREBP

SREBPは脂質代謝を包括的に制御する転写因子であり,3種類のアイソフォーム-1a,-1c,-2が存在する.SREBP-1cは脂肪酸合成を,SREBP-2はコレステロール合成を,SREBP-1aは両方の合成に関与する酵素群の遺伝子発現を制御しており,生体内の脂質代謝制御において中心的な役割を担っている.13 SREBPはプロセシングと呼ばれるタンパク質分解機構によりその活性が制御されている(Fig. 1).4不活性型の前駆体として合成されたSREBPは,プロセシングによりN末端側が切り離され,核内へと移行することで転写活性化能を獲得する.SREBPプロセシングの進行は,細胞内ステロールの変動により制御されていることが知られている.ステロールが豊富に存在する状態では,前駆体SREBPはSREBP cleavage-activating protein(SCAP)及びInsulin-induced gene(Insig)と三者複合体を形成しており,小胞体膜上に留まっている.細胞内ステロール量が減少するとSCAPの立体構造が変化し,SCAP/SREBP複合体がInsigから解離する.SCAP/SREBP複合体はcommom coated protein II(COPII)小胞複合体を介してゴルジ体へと輸送され,そこでセリンプロテアーゼSite-1 protease(S1P)及びSite-2 protease(S2P)による二段階の切断を受ける.これにより転写活性化能を持つN末端側が切り離され,成熟体として細胞質へと放出される.SREBPが切断・活性化されるこの一連の流れを,プロセシングと呼ぶ.5

Fig. 1. Simplified Scheme of Proteolytic Activation of SREBP

食餌性肥満マウスやII型糖尿病を発症しているマウスの肝臓ではSREBP-1cが過剰に活性化しており,その活性を抑制することで症状が改善することから,6,7 SREBPは肥満や糖尿病の治療・予防の分子標的として期待されている.

4. SREBP活性を抑制する食品成分の探索

SREBP活性を抑制する食品由来成分の探索を目指し,上記のHuh-7/FAS-Luc細胞株を用いて解析を行った.FASはSREBPの代表的な標的遺伝子であり,今回使用したプロモーター領域にはSREBP結合配列が含まれている.研究室が保有するおよそ300種類の食品由来成分及びその誘導体を対象として検討を行った.その結果,FAS遺伝子発現を抑制する複数の成分の同定に成功し,フラバノンの合成アナログである4′-ヒドロキシフラバノン,8ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネート,9ホップに含まれるキサントフモールやイソキサントフモール,10,11ヒラタケに含まれるクリシン12などを見い出した.さらにこれらの化合物が実際にSREBP活性を抑制していることを報告してきた.

5. スルフォラファンはSREBP活性を抑制する13)

上記の食品成分以外に,ブロッコリー由来成分であるスルフォラファンもFAS遺伝子プロモーター活性を抑制した.スルフォラファンの構造式をFig. 2に示した.Huh-7細胞へのスルフォラファンの24時間処理はSREBP標的遺伝子の発現を低下させたことから,スルフォラファンはSREBP活性を抑制することが示唆された.前述のようにSREBPは不活性型の前駆体として合成された後,プロセシングを受けて活性型の成熟体となる.そこでスルフォラファンがSREBPタンパク質におよぼす影響について検討した.Huh-7細胞をステロール枯渇培地で16時間培養した後,スルフォラファンを3時間処理しSREBP-1,-2のタンパク質量をウエスタンブロットにより解析した.その結果,30 µMスルフォラファン処理により前駆体及び成熟体SREBP量の減少が観察された.さらにスルフォラファンの1時間処理では前駆体SREBPのみの減少が観察されたことから,スルフォラファン処理は成熟体SREBPの減少に先立って前駆体SREBPタンパク質を減少させていることが明らかになった.次に,翻訳抑制剤であるシクロヘキシミドを用いて,前駆体SREBPタンパク質の分解におよぼす影響について検討した.Huh-7細胞にシクロヘキシミド処理を行い,時間を追って前駆体SREBP-1をウエスタンブロットにより検出した.前駆体SREBP-1タンパク質の半減期はスルフォラファン処理により,およそ6時間から2時間へと短縮した.さらに,プロテアソーム阻害剤であるMG132の同時処理により,スルフォラファンによるSREBP-1前駆体タンパク質量の減少がみられなくなったことから,スルフォラファン処理はユビキチン–プロテアソーム系を介して前駆体SREBPを分解している可能性が示された.

Fig. 2. Sulforaphane Structure

次に,SREBP-1a発現プラスミドをHuh-7細胞へ導入し,外因性SREBP-1へのスルフォラファンの作用について検討を行った.その結果,スルフォラファン処理は,内因性の場合と同様に,外因性の前駆体SREBP-1aのタンパク質分解を促進することが示された.各種欠失体発現プラスミドを作製・検討を行ったところ,SREBP-1aのC末端側を欠失した変異体ではスルフォラファンによる分解が減弱したことから,スルフォラファンはSREBP-1のC末端側に作用していることが示された.これまでにSREBPのN末端側(成熟体)はユビキチン–プロテアソーム系による分解を受けることが示されているが,C末端側がプロテアソームによる分解を受けることを示した報告はなく,本研究を通じてSREBP活性の新たな制御機構の解明につながることが期待される.

さらにスルフォラファン処理は内因性前駆体SREBP-2タンパク質の発現量も低下させた.SREBP-1とSREBP-2はC末端側での相同性は比較的低く,どの領域がスルフォラファンによる分解に関与しているのかについて,今後検討を行う予定である.

スルフォラファン処理による前駆体SREBPタンパク質の分解にSCAPが関与するかについて検討を行った.SREBPはSCAPと複合体を形成して小胞体膜に局在しており,SCAPの欠損は前駆体SREBPタンパク質の分解が促進することが報告されている.また,筆者はheat shock protein(HSP)90の阻害がSCAPタンパク質の分解促進を介して,前駆体SREBPタンパク質を不安定化させることを明らかにしている.14Huh-7細胞を100 µMスルフォラファンで6時間処理したところ,SCAPタンパク質の発現量の減少が観察された.そこで次に,SCAP欠損CHO細胞株(SRD-13A細胞株)を用いてスルフォラファンの効果を検討した.親株であるCHO-7細胞では100 µMスルフォラファンの6時間処理によりSCAP及び前駆体SREBP-1タンパク質の発現低下が観察された.SCAP欠損株であるSRD-13A細胞ではこれまでの報告の通り,前駆体SREBP-1タンパク質の発現が低下しており,100 µMスルフォラファンの6時間処理によって更なる低下が観察された.これらの結果より,スルフォラファンによる前駆体SREBP-1タンパク質の分解促進にはSCAP依存的経路に加えて,SCAP非依存的経路が存在することが示された.

スルフォラファンはHSP27の発現上昇を介してプロテアソーム活性を促進させることが報告されている.15そこで次に,スルフォラファン処理による前駆体SREBP-1タンパク質の分解にHSP27が関与するかどうかについて検討した.Huh-7細胞を100 µMスルフォラファンで24時間処理したところ,HSP27 mRNAレベルが1.8倍に有意に上昇した.siRNAを用いてHSP27をノックダウンさせた条件においてもスルフォラファンによるSREBP-1前駆体タンパク質の低下が観察されたことから,HSP27発現上昇はスルフォラファンによる前駆体SREBP-1タンパク質分解の促進には関与しないことが示された.

スルフォラファンはnuclear factor erythroid 2-related factor(Nrf2)の核内移行を促進することで抗酸化酵素の発現を促進することが報告されている.16そこでスルフォラファンによるSREBP-1前駆体タンパク質の分解促進にKelch-like ECH-associated protein 1(Keap1)–Nrf2経路が関与しているか検討を行った.Huh-7細胞についてsiRNAを用いてNrf2をノックダウンさせ,スルフォラファンによるSREBP-1前駆体タンパク質への影響に変化が起こるかについて検討した.その結果,Nrf2のノックダウン時においてもSFNによる前駆体SREBP-1タンパク質の発現低下が観察された.Nrf2のノックダウン効率はリアルタイムPCRによるmRNAの定量により検出した.これらの結果よりスルフォラファンはKeap1–Nrf2経路の活性化とは別経路で前駆体SREBP-1タンパク質の分解を促進することが示された.

スルフォラファンは前駆体SREBPのユビキチン–プロテアソーム経路による分解を促進することで,その活性を抑制していることが明らかになった.スルフォラファンがどのような作用機序で効果を発揮するのか,今後の課題である.

6. サクランボ軸に含まれるクリシン-7-グルコシドはLDL受容体発現を上昇させる17)

LDL受容体の活性化は血中LDLコレステロールの低下につながることから,本タンパク質の発現上昇は動脈硬化発症のリスクを低下させることが期待されている.筆者は,農産物の付加価値の向上及び有効利用を目指し,廃棄する部位からLDL受容体の発現を上昇させる機能性成分を同定し,その作用機構を解明することを目指した.評価系としては上記のHuh-7/LDLR-Luc細胞株を用いた.サンプルとしては果実(リンゴ,ナシ,カキなど)や野菜(ニンジン,サツマイモ,ワサビなど)の皮や種,茎などの50%エタノール抽出物を対象として検討を行った.約50種類の試料を調製・解析を行ったところ,ブドウ茎やサクランボ軸抽出物において,LDL受容体遺伝子プロモーター活性の上昇が観察された.

ブドウ茎については様々な品種で検討を行い,解析したすべての品種の茎抽出物においても同様の作用が観察された.これまでにレスベラトロールがLDL受容体発現を上昇させることを明らかにしていることから,18ブドウ茎抽出物に含まれるレスベラトロール量とHuh-7/LDLR-Luc細胞株でのLDL受容体遺伝子プロモーター活性の亢進について相関解析を行った.その結果,両者には正の相関が観察され,ブドウ茎抽出物のLDL受容体プロモーター活性亢進の責任成分(活性成分)はレスベラトロールであることが示唆された.

次にサクランボ軸抽出物について,活性成分の同定を行った.はじめにサクランボ軸抽出物を有機層と水層に分画し,どちらの活性化能が強いかについて検討した.その結果,いずれの画分もLDL受容体遺伝子プロモーター活性を亢進させたが,有機層でより強い活性が観察された.そこで有機層を逆相HPLC分取により100画分に分取し,フラクションアッセイにより活性成分の精製を進めたところ,離れた複数のフラクションに活性が観察され,複数の活性成分の存在が示唆された.活性の強かったフラクションについて,HPLC, LC/MS, NMRによる解析を行い,クリシン-7-グルコシド(Chrysin 7-O-β-D-glucopyranoside)を単離・同定した(Fig. 3).

Fig. 3. Chrysin 7-O-β-D-glucopyranoside (Chrysin-7glucoside) Structure

次にクリシン-7-グルコシドを有機合成し,サクランボ軸からの精製標品と比較検討を行った.Huh-7/LDLR-Luc細胞株で検討したところ,合成と精製いずれの標品でもLDL受容体遺伝子プロモーター活性を上昇させたが,合成標品の方が強い活性を示した.この後の解析には合成標品を使用した.次に,クリシン-7-グルコシドの内因性LDL受容体発現におよぼす影響について解析を行った.Huh-7細胞を30 µMクリシン-7-グルコシドで24時間処理したところ,内因性のLDL受容体mRNAやタンパク質発現は有意に上昇し,更にLDL粒子の細胞内への取り込みが有意に上昇した.これらの結果より,クリシン-7-グルコシドがLDL受容体発現を上昇させること,更にその上昇はLDL受容体活性の亢進につながることを示した.一連の解析により,サクランボ軸抽出物に含まれるLDL受容体発現を上昇させる責任成分としてクリシン-7-グルコシドの同定に成功した.

次に,クリシン-7-グルコシドがLDL受容体プロモーター活性を上昇させる作用機構について解析を行った.これまでに筆者は,フラボノイドの一種であるケンフェロールがextracellular signal-regulated kinase(ERK)経路を活性化すること,またその活性化は転写因子specificity protein 1のリン酸化を上昇させ,DNAへの結合を亢進させることでLDL受容体発現を上昇させることを報告している.19そこでクリシン-7-グルコシドがERK経路を活性化させるかについて,リン酸化ERKレベルを指標として解析を行った.Huh-7細胞への30 µMクリシン-7-グルコシドの24時間処理はリン酸化ERKレベルを上昇させたが,ERK経路のMEKの特異的阻害剤であるU0126の同時処理によってERKの活性化を抑制した条件でも,クリシン-7-グルコシドによるLDL受容体mRNA発現の上昇は維持されていた.これらの結果より,クリシン-7-グルコシドはERK経路を活性化するが,この活性化はLDL受容体発現亢進には寄与しないことが明らかになった.次に,様々なシグナル経路の阻害剤を用いて,クリシン-7-グルコシドによるLDL受容体発現亢進に関与するシグナル経路の探索を行った.その結果,AMP-activated protein kinase(AMPK)の阻害剤であるCompound Cとの同時処理によってクリシン-7-グルコシドによるLDL受容体遺伝子プロモーターの活性化が消失した.さらに,Compound Cとの同時処理は,クリシン-7-グルコシドによるLDL受容体mRNA発現の上昇,細胞内へのLDL粒子の取り込みの亢進も消失させたことから,AMPKシグナルの関与が示唆された.そこでHuh-7細胞にクリシン-7-グルコシドを処理し,AMPKの活性化を自身のリン酸化により評価した.その結果,30 µMクリシン-7-グルコシド処理は1時間からAMPKのリン酸化が上昇し,その上昇は24時間後にも維持されていた.以上の結果より,クリシン-7-グルコシドによるLDL受容体発現の亢進には,AMPK経路の活性化が関与していることが明らかになった.

AMPK活性化はProtein convertase subtilisin/kexin type 9の発現抑制を介して,LDL受容体タンパク質を安定化させることが報告されているが,20 AMPK活性化によるLDL受容体プロモーター活性の亢進についての報告はない.そこで代表的なAMPK活性化剤である,A769662,メトフォルミンなどによるLDL受容体遺伝子プロモーター活性への影響を検討したところ,これらのAMPK活性化剤処理では活性化が観察されなかった.これらの結果より,クリシン-7-グルコシドはAMPKの活性化だけではLDL受容体遺伝子プロモーター活性の亢進につながらない可能性が考えられる.そのほかの可能性として,AMPKの活性化の強度や持続性がクリシン-7-グルコシドとほかの活性化剤で異なることが関与しているのかもしれない.

クリシン-7-グルコシドはサクランボ軸1 g(乾燥重量)あたりおよそ0.35 mg含まれている.含有量としては高くはないが,通常はそのまま廃棄されるサクランボ軸が抗動脈硬化作用を発揮する可能性のあるクリシン-7-グルコシドの供給源として利用することができれば,当該農産物の価値を高めることにつながることが期待される.

また,サクランボ軸にはクリシン-7-グルコシド以外にもLDL受容体発現を亢進させる活性成分が含まれている.今後,これらの成分の単離・同定を進め,農産物の廃棄部位から機能性成分を見い出すことで,当該農産物の付加価値の向上に寄与していきたいと考えている.

7. おわりに

本研究により遺伝子発現レベルを変化させる成分を網羅的に探索することで,食品成分の新たな機能を見い出すことができた.今後,より詳細な作用機構を解明することで,抗生活習慣病効果を有する新たな機能性食品開発への応用が期待される.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

Notes

本総説は,日本薬学会第144年会シンポジウムS02で発表した内容を中心に記述したものである.

REFERENCES
 
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