山野研究紀要
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<論文>『かぶき・をどり・女形』 : 所作事源流考
増子 博調
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1998 年 6 巻 p. 27-38

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抄録

歌舞伎狂言のなかで,舞踊によって構成される演目(だしもの)を「所作事」という。所作事成立の当初はもっぱら女形のレパートリーであったが,後に(宝暦以後)立役も舞踊劇を演じるようになる。所作事の原形は阿国以来の歌舞伎踊にあり,はじめは容色を売りものにする女たちによるエンターテイメントに過ぎなかった。幕府の相次ぐ禁止令で女かぶき(若衆かぶき)から野郎かぶきに移った歌舞伎踊は,女性の役がらを演じる女形に引継がれ,従来のように性の魅力で観客を集める代りに,所作事としての演技力-芸の力で人気を獲ちとる方向に進むのである。当時ようやく劇芸術の体裁を整えた元禄かぶきにおいて,所作事は「狂言の花」と謳われ,幾多の名手が現われて歌舞伎劇の中核を形成する華麗な舞踊劇に成長して行く。所作事の声価をこのように高めた女形の役者たちは,役がらの純粋性を保つために「女」に徹する生活と心構えを崩さず,かつての女かぶきを上回る「女の色気」を漂わせて観客を悩殺したのである。彼らのこうした努力によって所作事の振りに盛りこまれた工夫の跡を,『舞曲扇林』等の歌舞伎資料を手がかりにして,紙幅の許す範囲で模索し,検証した。

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© 1998 学校法人山野学苑 山野美容芸術短期大学
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