抄録
本論は、横光利一にとっての小林秀雄の意味を考察している。横光は小林をほぼ一貫して高く評価する。しかし単一的であり、内容は乏しい。それは芥川龍之介へのそれぞれの評価に表れる。横光は芥川を失うが、小林は断絶している。これは既成的な横光と既成外の小林との違いであり、既成外の新しさを横光は評価したのである。が、その小林が横光「機械」を新しいとし、作家横光像を作った。その像は横光を創(きず)つけ、虚構の作家横光としての生を創(はじ)めさせた。晩年横光は『夜の靴』に小林の名を記すが、それは物語の中で小林を虚構として受けとめたことを意味する。二人の接点は虚構として成立し、そこに生きる「私」として文学的に再生するのである。